15、集合、天上十六系
ーー天使学校二十二日目
天偽国中心に異彩な存在感を放ち、天を貫くほどに建てられている巨大な塔ーー天上塔。
そこは天使であるなら一度は行きたいと思い、憧れる場所。
遥か高みを貫くほど、一直線に延びる巨大な塔。その大きさは計り知れず、天上塔の天上部には鈴が取りつけられている。
その鈴が鳴らされた時、世界中にいる全ての怨霊が消滅し、弾け、消えるという。
ーー天上塔
その場所は全ての天使の頂点に立つ十六人の天使がいる、
彼らのことを、皆はこう呼んでいる。
「ーー天上十六系、なーんで私たちが集められてるのかな」
ーー癒し系ホイミエル。
彼女の声は人々を癒し、成仏させる。
「天上十六系とは呼ばれているものの、全員が全員強いわけじゃないだろ。大食いだけの無能もいるしな」
ーーギャップ系クルーエル
普段の彼は人に厳しく、自分にも厳しく、怨霊に対しても厳しい男。
「ねえねえ、それ、僕のこと言ってる?」
ーー大食い系ブブエル
いつ見ても彼は食べている。当然そのせいか太っている。
「揉めている場合じゃないぞぉぉおおお。もうすぐ怨霊事変が始まるんだぞぉぉおおおお」
ーー熱血系バーニングエル
彼は相変わらず熱血で、語尾が燃え上がっている。
「バーニングエル、温もりで包み込んであげましょうか」
ーー温もり系ホエル
まるで親戚のお母ちゃんのような温もりや、実の父のような不器用な温もりまで、様々な温もりを持っている。
「おいおい、お前ら二人が協力したらこの世界燃えちまうだろ。ただでさえ被ってるんだから」
ーークール系ミズエル
どのような事態に陥っても冷静で、あらゆる局面で平生を保ちすぎて恐ろしいほどに。
「話が逸れすぎている。いい加減話を戻そう」
ーー頭脳系テトリトリエル
あらゆる戦況の不利を知恵と状況判断で埋める才男。
「怨霊事変、怨霊の数は未知数、というか数に限りがあるかすら不明らしい」
ーー動物系ゾウエル
この世に存在しているあらゆる動物に変身することができる。だが、未知の動物になることもできるらしい。
「その統率者ってあの死神だろ。俺の強靭な身体に傷をつけたんだ。リベンジといきたいがな」
ーー強靭系レギアエル
どんな攻撃であろうとも無効化するほどの鉄壁の肉体。その肉体に、かつて死神は傷をつけている。
「そういうのって退屈だよね」
ーー退屈系マタエル
少年は常に退屈の境地にいる。退屈を拒みながらも、心のどこかでは退屈を望んでいる。そんな奇人。
「マタエル、そういうの良いから。今は話を進めよ」
ーー根暗系ヘビエル
少年は根暗であった。人と話すことが苦手であり、一緒にいるだけでも心臓はばくばくだが、外面は平生を装っている。
「ヘビエルは根暗で性格悪いってちょっと残念だよね。まあそれがヘビエルの良いところだよね。っていうか、あと他に良いところあったっけ?」
ーー天然系ユルフワエル
彼女はいつも天然全開で、自分でも気づかない内に人を立ち直らせたる、時に勇気づけたりするが、極稀に傷つけてしまうこともある。今のように。
「やめてあげなよ。ヘビエル君が泣いちゃうよ。久しぶりにここに来てくれたのに、帰られちゃったら困るでしょ」
ーー優しい系ヒールエル
彼女は常に優しさだけを抱えて生きている。彼女が怒ったところを見た人は今まで誰もいない。
「深淵を、深淵を、深淵をぉぉおおお……」
ーー中二病系ダークネスエル
少年の右腕に封印されし暗黒の力は時に暴走し、世界を飲み込む……
「もう、ダークネスエルったら。右腕に包帯巻いてないと闇の力が解放されちゃうでしょ。抑えないと」
ーー天真爛漫系ララエル
天真爛漫で彼女の側にいる人は顔から微笑みが消えなくなる不思議場現象が起こる。
「うーん。興奮しちゃう」
ーー興奮系ファインドエル
この男、常に興奮している。
「……え?結局何を話しに集まったんだっけ」
ファインドエルの一言で、天使全員が一瞬全てを忘れていた。
「怨霊事変、それに対処する方法について、です」
ーー非天上十六系天使メイサエル
熱血系バーニングエルから実力を認められているほどの大天使。彼女自身は自分の力に納得はいっていないようだが。
彼女が話を戻したことで、怨霊事変に関しての話がようやく始まる。
「怨霊事変、それをどう食い止めるかに関してですが、我々全勢力をぶつけるということで良いんじゃない。退屈だけど」
「この話し合いの場を設けたのは、当日の対処方法を考えるためではありません。それ以前に我々がどう仕掛けるかが重要なのです」
メイサエルは未来を見通した上で、そう述べた。
そのことに頭脳系テトリトリエルは言う。
「確かにその方が重要だ。現在生界と天偽国で確認されている、怨霊が封印されている場所を潰した方が良い」
「そんなことをしたら怨霊事変の時期を早めたりするだろ。死神とやらは。残虐なことを幾つも行ってきた彼が怨霊こ討伐を黙ってみているはずがない」
かつて死神と対峙したことがある強靭系レギアエルだから分かる。
それに対し、メイサエルは冷静に述べる。
「確かにそうです。ですので怨霊を封印している場所を破壊するのは、極めて死神の目の届かない辺境の地や少しの怨霊しかいない場所、それらを排除しましょう」
「良いね。それなら今まで通り毎日行われている、天使の怨霊見回り中にできるね」
「肝心なのは、こちらが怨霊事変について情報を知らないと思わせることです。下手すれば、死神は怨霊事変の時期を早める可能性があります」
「では早急にかかるとしよう。その仕事に」
天上十六系の同意もあってか、怨霊を一匹でも減らすため、天使たちが動き始めようとしていた。
死神に好き勝手はさせない。生界を護り、天偽国も護り、この世界を今まで通り平穏に保つ。
そのための布石が、今打たれた。
安堵し、そっと息をこぼすメイサエル。だが話はまだ終わってなどいなかった。
頭脳系テトリトリエルは言う。
「念のため、君のところの生徒たちにも怨霊が封印されている場所の消滅を手伝ってもらおうかな」
「正気ですか?」
「ああ。今は一刻を争う。それに怨霊事変には参加してはもらわない。その上比較的少ない怨霊が封印されているところを頼みたい」
メイサエルは上目使いでテトリトリエルの顔を見て、反応を窺っていた。言葉を翻すつもりもなく、実際に行わせようとしている。
生徒のことを思い、メイサエルは返答に詰まる。
「いずれ優れた天使になるためには、この道は通るべき道だ」
「なるほど。しかしまだ二十二日、早いのでは?」
「だが君が鍛えた生徒だ。自信をもって参加させてみるのはどうだ?当然天上十六系の天使も一人は派遣しよう。それなら文句はないだろ」
「分かりました。それならば受け入れましょう」
渋々だったが、メイサエルはその提案を受け入れた。
「ではメイサエル、今日にでもそれを行ってほしい。怨霊封印場所の消滅、任せたよ」
メイサエルは天上塔を後にする。
付き添いで来ることになった天使は熱血系バーニングエル。
「よりによってお前かよ」
「そうだ、俺だぜぇぇえええ」
相変わらずうるさい声に、メイサエルはため息をこぼす。
「バーニングエル、で、今回の怨霊封印場所は本当に低級なんだろうな」
「当たり前だぜぇぇええ。約束を破るなんて酷な真似はしないぜぇぇぇえええ」
「果たしてどうかな」
疑い深いメイサエルは疑っていた。それはひとえに、今回の任務に嫌な予感を感じていたからだ。
「まあ行くしかないか。それに、私が生徒を護れば良いだけの話だ」
やがて始まる怨霊封印場所の消滅作戦。
天上十六系と謳われるバーニングエルを味方につけ、メイサエルは不安を抱きながらもその場所へ生徒たちとともに赴くことになる。
悪いことが起きなければ良いが……
「悪いことが起きないと良いね。メイサ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます