13、熱血系の天使

 メイサエル先生たちのもとに戻った後で、私たちはバチバチに怒られた。

 ーー当然だ。

 何も言わず、この危険な生界で自分勝手に動いたのだから。怒られるだけで済んだことが何よりの幸いだ。


「先せーー」


「メイサエル先生、折り入って話があるのですが、よろしいでしょうか」


 パンテラの話を遮り、チルドレンがメイサエルに話すことへの許しを求める。


「良いが、改まって何だ?」


「昨夜、死神と名乗る男はこのような鍵を持っていました」


 チルドレンは手に握っていた鍵をメイサエルに見せた。

 手に収まるほどの大きさの鍵で、色は隅々まで漆黒で彩られており、黒く禍々しいオーラを放っている。

 どう考えても天使産のものではないことだけは確かだ。だとすればーー


「この鍵、まさか……」


「はい。怨霊の封印を解く鍵です」


「なぜこの鍵が死神などという意味不明な者の手に渡っている?」


「分かりません。ですが死神はいつでも世界を破壊できると言っていました。つまり、もしかしたた鍵はまだ持っている可能性が高いです。それとも他に世界を破壊する何かを持っていると思われます」


「随分と恐ろしいな。で、お前は死神という者と戦ったのか?」


「はい。捕らえることはできませんでしたが、鍵を奪うことには成功致しました」


「なるほど。勝手にいなくなった不良が、まさか生界を救う救世主になるとはな。君たちが不良で良かった」


 チルドレンは上手く話をねじ曲げ、変えることで自らの愚行を帳消しにして見せた。

 そのため、パンテラの犯してしまった悪行も今では存在しなかったことになっている。


「だが、次からは勝手にいなくなるなよ。今回みたいに上手くいくわけじゃないんだよ。それほどに世界は不安定で、そして残酷だから」


 メイサエルは血塗られた過去を思い出していた。

 血で染められた、残酷で、最悪の物語を。



「お前らがいない間に今日の実戦は終了した。他の生徒はこれから下校するが、お前ら三人は補習だ。まだ校舎にいろよ」


「「「分かりました」」」


 その日は実戦は終わり、他の生徒は帰っていく。

 私とチルドレン、パンテラはメイサエル先生に校庭で補習を受けていた。


「さあ、私に攻撃を与えない限り補習は終わらないぞ」


 私たちは弓を、チルドレンは槍を、パンテラは剣を持ち、メイサエル先生へと斬りかかる。

 メイサエル先生はまるで私たちの動きを読んでいるかのように武器での攻撃を受け流していく。


「片手だけでも君たちの攻撃を容易くかわせる。この程度では私の足元にも及ばなーー」


 油断をしていたメイサエルの頬にチルドレンの蹴りがかすった。

 それが意外だったのか、メイサエルは微笑み、驚きを纏いながら頬に触れていた。


「チルドレン、やはり君は戦闘面においてはクラスで飛び抜けているな」


「はい。ありがとうございます」


「だが、一人で突っ走り過ぎる性格が状況によっては悪い方へ働くかもしれない。だから仲間を頼れる時は頼れよ。もし今仲間を頼っていたら、あと三十分早く私に攻撃を与えられていたはずだ」


「分かりました。次から気を付けます」


 攻撃が当たった。

 ということはここで補習も終わりだ。


「じゃあチルドレンは帰って良いぞ」


「「……え!?」」


 私とパンテラは息を合わせ、動揺のままに声を漏らした。

 チルドレンが攻撃を当てたのだから、ここで勝負は終わるはずーーそう思った私たちがまるでバカだった。


「攻撃を与えた者から帰って良し、だ」


「そんなこと言ってませんよ」


「いいや、言った」


「言ってませんって。後付けはさすがに駄目ですって。それに私たち全員で協力して追い詰めたんじゃないですか」


「ごちゃごちゃ言わずかかってこい」


 メイサエルは両手を武道家のように構え、佇む。


「駄目だこの人……」


「さあ、来い」


「こうなったらやるしかない。パンテラ、ぶっ潰すぞ」


「ああ。もうやるしかない」


 投げやりに、私とパンテラは勢い良くメイサエルへ襲いかかる。それでもメイサエル先生に敵うはずもなく、何時間も私たちは攻撃をし続ける。


「当てる」


「当てれば終わり」


「「当てればーー」」



 何時間も補習を続けるメイサエルやリアライゼたちを、校舎内から校長とともにある天使が眺めていた。


「メイサエルは俺たち"天上十六系"にも匹敵するはずだった逸材だろ。そんな奴がどうしてあの天使見習いなどという子供たちと勝負しているんだぜ」


 熱血系の男が校長に問いかける。


「彼女はこの学校で教師をしている。だから生徒に稽古をつけているですね。いやー、最初はどんな教師になるのかと思いましたが、立派ですね。メイサエル先生は」


 校長は感心していた。

 その横で、熱血系の男が燃え上がっていた。


「メイサエル、お前はもっと強い奴と戦うべきなんだぜ。それなのにどうしてあの程度の子供と戦っているんだぁぁぁあああ」


 男は窓を突き破り、メイサエルのもとまで飛びかかった。

 そのまま燃え上がる拳でメイサエルに殴りかかる。メイサエルは生徒ら二人を左手で抱え、右手で熱血系の男の拳を受け止めた。


「いきなり何の用だ?」


 メイサエルは鋭い視線を男に送る。


「いやぁあ、まさか俺の拳を受け止めるとはな。お前はやっぱ俺たち天上十六系に入るべきだったんだぜぇぇえええ」


「お前、誰だ」


「俺は天上十六系の一人、熱血系のバーニングエル。お前の実力を見に来たんだぜぇぇええ」


 メイサエル先生の腕に抱えられる私とパンテラは自然とこう思った。


「なんか面倒くさい奴来た」

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