テス編
4、テスさんの悩み
ーー天使見習い四日目
この日、リアライゼはいつもよりも早く学校に登校していた。
まだ授業が始まるまで十分もある。最高記録を更新し、リアライゼ自身も喜び、叫んでいた。
「おおおおおおおお」
「全く、調子のいい奴だな」
とは言いつつも、メイサエルはリアライゼを少しだけ見直していた。
やがて授業が始まる。
メイサエルは教卓に立つ。
「それでは授業を始める。が、今日は今までの三日間とは違うことをしてもらう」
「ってか私、この三日間何をやったかよく分かんないんですけど」
「まあそこは罰だ。分からなかった分は自力でなんとかしろ。それで追いついてこそ、天使だからな」
「分かりました」
リアライゼは素直に返事をした。
それだけでメイサエルには衝撃だった。
たった数日で変わったリアライゼに、メイサエルは衝撃の連続だ。
「それでは今日は実習訓練を始める。当然ハイレベルなものを用意している。だが天使になりたいと願うお前たちならきっと越えられるはずだ」
一体どんな試練なのか、皆息を飲み、緊張していた。
「今日お前らに三人一組を組んでもらう。一人余るから、ひとチームだけ四人組を許可しよう」
「それで何をするんですか?」
「ひとチームに一つずつ、違う課題を出すつもりだ。だから何をするかはチームを組んでからのお楽しみだ。さあ、まずは三人組を組め」
生徒たちは誰と組もうか考え始めていた。
まだ四日、それほど仲良くもなっていないであろう彼らは、互いに話しかけるのにまだ慣れていない。
(まずは協調性からだ。天使として必要なもののなかに、当然協調性も含まれている。それがなければ生死をさ迷う怨霊とも話すことさえできないからな)
メイサエルは様子を観察していた。
最初に声をかけたのはチルドレン。彼は気に入っているのか、リアライゼに声をかける。
「ねえ、一緒に組もう」
「うん」
(やはりあの少年、リアライゼに何かしらの好意を抱いているな。だがそれをすぐに行動に移せるのは、相当な勇気がいることだ。彼には才能がある。誰とでも仲良くできるという才能が)
だが組むのは最低三人組。
あと一人足りない。
「ねえねえ、私をあなたたちのチームに入れてくれませんか?」
そう話しかけてきたのは、礼儀正しそうで、おしとやかな少女。
「良いよ。一緒にやろう」
これで三人組が完成した。
三人は向かい合い、自己紹介をし合う。
「まずは僕からかな。僕はチルドレン。よろしくね」
黒髪に、黒い瞳。至って平凡な少年だ。
「私はリアライゼ。初日とか色々問題起こしちゃったけど、もう問題起こさないように頑張るからよろしくね」
紫と黄色が混じった派手な髪色。右目は紫、左目は黄色と左右違う色をしている少女。
「私はテスです。足を引っ張らないよう頑張るのでよろしくお願いします」
礼儀正しく自己紹介をした少女は、おしとやかで、育ちが良いのか行儀が良い。
「よろしくね、テス」
「よろしくテスさん」
「はい」
名前を呼ばれ、テスは嬉しそうに声をあげる。
「それではそれぞれチームができましたね。ではチームの代表者は私のもとに来てくれ。課題を出す」
「じゃあ俺が行くよ」
チルドレンは言い出しっぺとなり、メイサエルの先生のもとへと行った。
リアライゼとテスは二人きりになる。
「ねえテス、どうして私たちと真っ先に組みたいと思ったの?」
「どうしてそんな質問を?」
「自分で言うのもなんだけど、私、結構な問題児じゃん。でもそんな私がいるのにテスは組みたいって言ってくれた。だからどうしてかなって思って」
「リアライゼさんは問題児なんかじゃありません」
クラス中に響くほど、テスは声を大にして言った。
一瞬教室が静まり返ったが、すぐに皆それぞれ話に戻った。
周りは気にしていないとはいえ、テスは恥ずかしそうにしながら、声を下げて話す。
「私、あまり人と話すのは苦手なんです。会話をしようとしても、いつも中途半端に終わっちゃって、楽しく会話ができないんです」
テスにはそれが苦痛だった。
「それで気まずくなることがよくあるんです」
「それでどうして私のところへ来たってことに繋がるんだ?」
「だってリアライゼさん、陽気で明るくて、気さくな方じゃないですか。最初にあなたを見た時から、私はリアライゼさんみたいになりたいって思ったんです」
「それは……嬉しいな」
リアライゼは本当に嬉しくて、照れていた。
「でもさ、今思ったんだが、テスは普通に話せてるじゃん」
「そ、そうですか?」
「ああ。多分話す、ということを意識し過ぎてるんだよ。意識し過ぎると話せるものも話せないだろ」
「確かに、話せない時はいつも意識し過ぎてますね」
思い返してみれば、話せなくなる時は似たような状況ばかり。
「テスは普通に話せる奴だって。だから自分に自信を持とうぜ」
テスは嬉しくなっていた。
憧れていたリアライゼにそう言われた。それだけで頬がたるんたるんになるくらい嬉しかった。
「欠点があれば補い合っていこう。それがこの学校、天使学校だろ」
「はい。おかげで勇気が出ました。リアライゼさん」
「それじゃあ課題を頑張ろうか」
「はい」
そこへチルドレンが戻ってきた。
彼が持ってきた課題はーー
「俺たちの課題の内容は、天人マンションで起きている隣人トラブルを解決する、というものです」
「「ぇぇぇえええええええ」」
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