3、一日で人は変われない
メイサエルは教室へと戻る。
メイサエルが帰ってきた時、そばにリアライゼがいないことにチルドレンは不信感を抱いていた。
「先生。リアライゼは?」
「彼女なら退学処分にしました」
生徒たちは驚く。
チルドレンは依然として平然としながらも、リアライゼが退学にされたことを面白がっていた。
「それじゃあ先生、リアライゼはもう戻ってこないんですか?」
「ああ。そういうことになるな」
「なるほど。そうですか」
「他に質問は?」
「いえ」
「それでは授業を始めるーー」
今日一日分の授業が終わった。
メイサエルはすぐに教室を出て、校長室へと向かった。
「校長、入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ。何かな?」
校長は優雅に椅子に座っていた。
校長はかなりの老人で、長い間生徒たちを見てきた。
メイサエルは座っている校長の前まで行き、単刀直入に話をした。
「私の受け持つクラスの生徒、リアライゼを今日限りで退学処分に致しました」
「退学か。まだ二日目だが、その子は何か問題を犯したのかね?」
「はい。遅刻を二日続けてしました。ですので彼女を退学処分としました」
メイサエルははっきりと言った。
それに校長は険しい表情で答える。
「本当にそれだけの理由で退学にしたのなら、さすがに厳しすぎんかね?この学校は最初は確かに未熟者かもしれないが、後々成長し、己の行動を見直すことができるかもしれない」
「かもしれない、ですか」
メイサエルは気にくわない、とでも言うようなことを表情に表していた。
「何か不満かね?」
「最低限の常識は持ち合わせていただかないと、こちらとしても天使に育てようという意欲が湧きません」
「それではこの学校は何のためにあるというのだ?天使見習いを優れた天使にするためにあるのではないのか?少なくとも、今すぐ退学させるというのは、この学校の方針には合わないような気もするが、どうかな」
「では、どうしろと?」
「一度チャンスを与えるだけで良い。失敗から学べる生徒であるならば、その生徒には再びこの学校で学んでもらうべきだ」
「チャンス……ですか」
やはりメイサエルは納得していない様子だった。
彼女の頑固な性格をよく知っている校長は、これでも退学は取り消さないだろうと、そう思っていた。
「分かりました。では一度だけ彼女にチャンスを与えましょう」
意外にも、彼女は校長の意見を受け入れた。
だがその時の彼女の表情は、少し恐ろしく、何か悪巧みをしているような表情だった。
「メイサエル、何をするつもりだ」
恐る恐る校長は問う。
その問いかけに対し、メイサエルは悪魔のような微笑みで言う。
「さあ、何でしょうかね」
校長は不安だった。
もしかしたら、メイサエルはリアライゼを殺す気なのではないかと。
真意がどうであれ、校長にメイサエルを止めることはできなかった。だからあとは、メイサエルを信頼して任せるしかなかった。
メイサエルは背中に生えている羽を広げ、校舎から飛び立った。
その姿をチルドレンは見ていた。
「退学の取り消しでもするのかな」
チルドレンは期待を抱き、飛んでいくメイサエルの背中を眺める。
飛んでいったメイサエルが向かったのは、リアライゼが暮らしている天人マンションであった。
百階建ての天人マンションの一階。そこにリアライゼは暮らしている。
「リアライゼ、いるか?」
リアライゼは恐る恐る扉を開け、メイサエルに顔を見せた。
目の回りは赤くなっている。
「先生、何の用ですか?」
「戻りたいか?学校に」
そう問われたリアライゼは少し固まった。
「戻れるんですか?」
「ああ。戻ることはできる。だが当然条件がある」
「条件ですか……」
「その条件とは、もう二度と問題を起こさないこと。その問題の中には当然遅刻も含まれている。それでも戻りたいというのなら、戻ってくると良い」
リアライゼは考えていた。
学校には戻りたい、天使にはなりたい。
それでも、また遅刻してしまうかもしれない、問題を起こしてしまうかもしれない、自分を信用できない心が葛藤していた。
それでも、彼女が自分の胸を強く押さえながら言う。
「私は……私は、戻ります。天使学校に」
「そうか。それがお前の選択か。なら明日、時間以内に来ることだ。その程度はできるようにしろよ。リアライゼ」
「はい」
その返事は、一日目や二日目の朝のような軽い返事とは違った。
「ではまた明日な。退学にならないことを、切実に願うよ」
とは言いつつも、メイサエルの本音はどうなのだろう。
それでも彼女はリアライゼにチャンスを与えた。そのチャンスをどう使うか、それはリアライゼ次第。
ーー天使見習い三日目
学校が始まる五分前、既に13人の生徒が集まっていた。
メイサエルは教卓で、リアライゼが来るのを待っていた。
(所詮ただのガキ。どうせ約束なんか果たせはしない)
学校が始まる一分前になっても、リアライゼは来なかった。
やはり遅刻をしないで登校することなんて、できはしない。そう思い、メイサエルは入り口を閉めようとした。
扉に手を当てた瞬間、廊下を走る音を聞き、おもむろにその方向へ視線を移した。
そこには、確かにリアライゼの姿があった。
「へえ。克服したか。遅刻癖を」
時間ギリギリだったものの、リアライゼは間に合った。
「先生、間に合い、ましたか」
(こいつ!)
メイサエルは心のどこかでリアライゼを歓迎していた。
一日で人は変われない。メイサエルが掲げていた持論を、リアライゼは見事ひっくり返して見せた。
(面白い)
学校が始まる鐘の音が鳴ったのは、リアライゼが教室に入ってから十二秒後。
「リアライゼ、席につけ。授業を始める」
この日、リアライゼは学校に戻ってきた。
それを見て、陰ながら見ていた校長は安堵していた。
「これで退学者はいなくなりましたね。彼女はすぐに退学にしてしまいますから、本当に困ったものですよ」
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