第3話 姉がいない生活

 お姉ちゃんのいなくなった世界はそんなに大きくは変わらなかった。

 いや、実際にお姉ちゃんという僕にとって偉大で神様みたいな存在が消えてしまっているのだから僕の心の支えはなく落ち着かないとか。

 いつもお姉ちゃんがどこかで僕をみているんじゃないかという気がすると、僕の精神はどんどんすり減って言った。


 だけれど、周りの人にとってはなにも変わらなかった。

 お姉ちゃんの話をしてもみんなきょとんとした顔をする。

 そして僕の睡眠時間のことを話し始める。

「ちゃんと眠れてる?」

「悩みがあったら聞くからね」

 そう言って、困ったように弱々しく微笑むのだ。

 だけれど、それくらい。

 お姉ちゃんがいなくなったからと言って、再び陰口をたたかれたり、いじめられるようなことはなかった。


 確かに、もう僕は高校生なのだ。

 子供と大人の境目にいる。

 もう、あの頃みたいに何もできない弱い子供じゃない。

 自分で何かを成し遂げることができる。

 ただ、まだ学生の身なので両親の庇護の下で生活をしているけれど。


 だから、今の自分にとっての最善の選択は、まわりに心配をかけずに高校を卒業してお姉ちゃんを探し出すことだと思っていた。


 そのために、誰よりも努力した。

 勉強も部活も友達付き合いもすべてを完璧にこなした。

 多分ほかの子供と違って、僕は目標があるからそれらをこなすのは難しくなかった。

 思春期特有の苛立ちや自信過剰、そして自分探し。

 そんなものにかまっている暇はなかった。

 すべてはお姉ちゃんを再びみつけるため。

 そのためだけにすべてを完璧にこなす。

 当事者だったときは難しいと思っていたことも、客観的にみれば解決方法はシンプルだったりする。


 僕の目標は姉を再び見つけること。ただ、それだけだった。


 そんなある日のことだった。


「なあ、夏祭りにいかね?」


 学校の友人から言われた。

 本当は祭りなんて興味がなかった。

 だけれど、良好な友人関係を保つことも完璧な高校生活には必要だ。

 ノリが悪いなんて理由で、クラスから浮くなんてごめんだった。

 僕は愛想よく、


「ああ、行く。行く」


 と軽く返事をする。

 しかし、祭りなんてあっただろうか。


 僕の住む町ではこんな時期に祭りはしていない。

 ただ、高校生ともなると県内いや人によっては県をまたいで通学している人間もいる。

 もしかしたら、そいつの町では毎年行われている大きな祭りなのかもしれない。

 でも、ずいぶん中途半端な時期だと思った。


「じゃあ、日曜日。うちの近くの駅って言いたいところだけど、部活があるから高校の最寄りのバスで行こう。学校前に集合でいいかな?」


 そいつはとても嬉しそうだった。

 友達がいないタイプには見えないけれど。

 祭りなんて何が楽しいのだろう。

 人が多くごみごみしていて疲れるだけだと思うのだが。

 僕は人の考えることは分からないなと思いながらあいまいに頷いた。


 下手なことを言って相手を傷つけるよりも、数時間つきあって今後の人間関係を良好に保った方がメリットがあると感じたからだ。

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