第4話 非日常から非日常へ

 日曜日に学校に行くのは変な感じがした。

 部活の練習とかがあれば特に何も感じないのかもしれないけれど、僕は休日に練習のあるような部活は選ばなかったので日曜日に学校に来たことはなかった。

 日曜日の学校は思ったより普通だった。

 なんとなく、もっと非日常の光景が広がっていることを期待したが、自習するやつがいない放課後の学校と大して違いがなかった。

 授業がない分、少しだけのんびりとした空気が流れているがただそれだけだ。

 日常の延長にあるなんでもない場所だった。


「わりぃ、遅くなった」


 正門に寄りかかるようにして待っていると、なぜだか友人は道の向こう側からやってきた。

 部活があると言っていたのに、学校の外から来るなんて変だなとは思ったがあまり深くはつっこまないことにする。

 別に大したことのない、少し前に流行った日常の謎というやつだろう。

 僕がミステリー小説の無気力な主人公であれば、その謎を解決すべきかもしれないけれど。

 そんなどうでもよいことにこだわって友人から違和感を覚えられる必要はない。

 本日は友人サービスの日。

 彼の楽しみたいものに付き合って、今後の学校生活をよりスムーズに進めるための接待の日なのである。

 余計なことには触れないでおくのが賢明だ。


「大丈夫。今、来たところだから」


 そう言って、いやいやと手を振る。

 きっと僕はとても感じのよい友人に見えるだろう。


 僕たちはくだらない会話――お笑い芸人や昨日見たSNSや動画について――をしながら、だらだらとバス停まで歩いた。


 バス停は学校の前にあるものかと思っていたが、友人はそれより少し先に歩く。すると、もう一つのバス停があった。

 普段、通学にバスを使わない僕からすると見慣れない時刻表。

 行先ルートもなんとなく暗号めいていて不思議な感じがした。


 バスはひどく古びていた。

 イメージでいうと千と千尋の神隠しで乗っていた電車のイメージが近いだろうか。

 木でできた床に劇場の天幕をイメージさせる赤い座席。なんとなく薄暗い車内にはLEDとは異なる光源が揺らめいていた。


「いまどき、こんなタイプのバスが走ってるんだな」


 僕が感心していると、友人はふんわりとした返事をする。


「ああ、なんかレトロイメージで観光客へのサービスみたいなことを考えているらしいよ」


 友人の住む場所は田舎だけれど、そんな観光なんて気にするような場所だっただろうか。温泉などがあれば観光に力を入れるのも分かる気がするが。


「なあ、温泉とか入れるの?」

「なんだよ、急に。悪いが温泉はない。どうしても風呂に入りたければ共同風呂があるけど、混浴ではないぞ?」


 友人は不思議そうな顔をした。


「いや、いいんだ。忘れてくれ」


 俺はそういって、適当な話題を振る。

 来週の小テストの範囲とか、教師の噂とか、そういう毒にも薬にもならない話。

 いつも通りのテンポで会話をする。

 だけれど、今日は日曜日のせいか少しだけそれがいつもよりだるかった。

 なんというか、友人の返事もワンテンポ遅れてくるというか。

 友人自身も何か気にしているのか集中していないみたいだった。


 バスに乗っている時間が永遠のように苦痛に感じた。

 こなけりゃ、よかったな。

 そう何度も後悔した。


 だけれど、その後悔もバスを降りたとたん吹き飛んだ。


 赤く淡い雪洞の光。

 出店からあふれるどこか淫靡な人の影。

 嗤いながら目の前を走っていく、おかっぱ頭の女の子。

 折に入れられた体の半分が動物の半裸の女性。


 そこにあったのは今まで見たことのない祭りの風景だった。

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