――ユキ3――


 ヒロトとセックスした。

 きわださまの子供を妊っているのに。


 いやだったのだ。


 はじめての相手はヒロトだって信じて疑わなかったのに、ある日、急に神様の花嫁に決まったと言われて、得体のしれない存在が体内にはびこるなんて。


 自分が何か別なものにつくりかえられてしまうんじゃないか……そう思って、私は何度も自分を抱きしめた。


 きわださまの子供が私のおなかのなかにいると知ったら、ヒロトはなんていうのだろう。

 いや、そもそもヒロトはきわださまなんて知らないのだ。


 知っているのは村を守ってくれる神様がいるというだけ。

 ヒロトとのキスは罪の味がした。

 私はなにも悪いことなんてしてないはずなのに……ううん、ヒロトに本当のことを言っていない。

 でも、きっと話しても信じてくれない。

 私たちにとって、村の神様はただの物語に過ぎなかったのだから。


 だけれど、途中でとめることは出来なかった。

 今を逃したら、ヒロトの側にいられなくなってしまう。

 なんとなく、そんな気がしていた。


 それから一週間、意外なことになにも起こらなかった。

 ただ、両親に祭りの夜に勝手に出歩いたことを怒られて外出を禁止されただけ。

 きわださまも現れなかった。


 でも、私の胎内の何かは生き続けていたのだ。


 暑さのせいか食欲がないのかと思っていた。

 家からでられないから少し太ったのかと思っていた。

 いや、そう思い込もうとしていたのだ。



「妊娠した」


 私はやっと外へ行くことを許された日、ヒロトにそう告げた。


「えっ??」


 ヒロトはとても驚いた顔をした。

「俺の子じゃないだろ?」そんな言葉が続くんじゃないかと思って怖かった。

 だけれど、ヒロトは違った。


 両親のところに一緒に行ってくれる。


 でも、両親に言ったところでどうなるというのだろう。


 娘を花嫁という名の生け贄に差し出すような人間だ。


 きっと、ろくなことにはならない。


 私は静かにヒロトを抱きしめてお別れのキスをした。

 ヒロトは子供のとき、白雪姫ごっとをせがんだときみたいな控えめなキスだったけれど。

 私はヒロトを忘れないように、むさぼるようにキスをした。


 そして、私は自らあの日閉じ込められたお堂に向かったのだ。

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