第13話 特別なシオン
それから何度も男に会った。
あう度に全財産を巻き上げられクジを引かされる。
そして毎回、妹を下取りに出すことを薦められる。
ただし、最初は「一生遊んで暮らせるだけの大金」だったのが前回くらいにもなると「慎ましく暮らせば一生もつ」程度の金額になっていたが。
それでも大金であることに変わりはない。
人間を一人売っても、おそらく一生暮らせるだけの金額になることはないだろう。
それが赤ん坊でも若い女でも普通の人間を売って一生遊んでくらせる訳がない。
そして、男と何度かやりとりするうちにシオンが何者なのか本当に少しずつだが聞き出すことができた。
どうやら妹のシオンは「妹」らしい。
いや、おかしなことを言っているわけではない。
賞品としてのシオンの名前が「妹」なのだ。
そう、あの日のクジの一等賞は「妹」という賞品だった。
僕がクジを引いたことによりシオンは僕の妹になった。そして、賞品を引き当てた影響で周りの人間の記憶も改変されたというのだ。
シオンは昔からいることになっていて、だれもシオンの特別な容姿に疑問を持たない。
そしてシオンは特別らしい。
非常に珍しい賞品でただの当たりではない。
男がいうには、男の店のクジの景品は全部別な世界の少女だということだ。
少女が売り物なんていうとすごくいかがわしい感じがするが、「別に性的なサービスを提供させているわけじゃねえよ。だったら、兄ちゃんにクジを引かせることができねえだろ」そういって男はげへげへといやらしい笑い方をした。
男は時々、慇懃になったり酷くゲスになってみたり最初と違う態度をとることがあった。大抵そういうときは本質に近づいているけれど、より慎重に返事をしなければいけないときだというのがだんだん分かってきた。
僕はあれから何回かクジを引いた。
すべてはずれだった。
クジを引く度に全財産を失う。
といっても僕の全財産なんて可愛い物だ。
自分の財布に入った小遣い程度なのだから。
子供の小遣いなんてたかがしれている。
それでも一回でも景品を当ててしまった人はクジを何度も引くらしい。むしろ「もう一回」だの「次はどこにくるのか」そんなことを土下座しながら必死に聞いてくる客も少なくないということだ。
「土下座している頭を踏みつけてやったよ」
と男は嬉しそうに笑った。
「他の景品は何があるの?」
男が機嫌のいいとき僕はさりげなく聞いてみた。
「そうさなあ」
男はパイプの煙をくゆらせながら遠くをみて間を開ける。
ここであまり食いつき過ぎてはいけない。あくまでちょっとだけ興味があって聞いてみた程度にしておかないと。
「この景品っていうのは、別な世界の人間だって話は前もしたよな。んで、この別な世界の人間が景品になるのはな、自ら進んでなるときだ。けっして、僕らが無理矢理さらってきてるわけじゃない」
男はそう言ってこちらを伺う。いや、妹のシオンのことを横目で確認していたのかもしれない。
「自分からクジの景品になるなんて別な世界でも普通じゃないわけで、だから訳ありの女……いや、こういってしまえばまた僕がうさんくさくなっちまうなあ」
男はそう言って口を噤んだ。そんなやりとりが何度か繰り返された。
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