第8話 噂

 ユキはしばらく学校に来なかった。

 噂では、東京の学校に行くためにしばらく都会にある親戚の家に預けられているということだった。

 ただ、あくまで噂だ。

 この村の『噂』というのは二つの意味がある。

 そう、秘密にしていたくても皆があっというまに白日にさらしてしまう『真実』としての噂と、もう一つ。誰もその噂以上のことを探ってはいけない、村としてはその事象が正しいとして作られた『事実とは全く異なる』噂。

 ユキのことはもちろん後者だった。


 だけれど、そのことを知りながら父親にそのことを聞いた。

 そして、殴られた。

 いつも穏やかな父からは想像できないくらい激しく。

 でも、その瞳の奥はなにかにおびえているようだった。


 だけれど、殴ったあと父は「お前も東京に行くか?」と俺に聞いた。

 それがどちらの意味なのかは分からない。


 そもそも、いままでユキのお父さんはユキのことはずっとこの村に置き続けるつもりだったのだ。

「大学はすごくがんばらないといけないかも」

 とユキは言っていた。

 ユキの家はユキを一生この村から出さないつもりの家だったのだ。

 そういう家は少なくない。

 なんせ小さな村の中だ。


 そんなユキの家が、急に娘を東京の学校に行かせるなんて言うわけがない。


 僕はそのとき、うっすらと思っていた。

 ユキは殺されたのかもしれない。

 ユキの両親によって。


 自分たちの家族のことは、家族の中でケリを付ける。

 そんなことが昔はよくあったらしい。


 その原因が、希和蛇織を穢したことなのか、それとも妊娠したことなのか、僕には分からなかった。


 ただ、僕にはなにもできなかった。

 この村ではそれが《普通》であり《生きていく》にはそれ以外の方法はないのだ。


 きっと、この村は変わることなんて無い。


 近代化されて、インターネットも通っているのにも関わらず、僕の目の前に広がる世界は本やマンガの中に広がる普通とか当たり前とはズレていた。

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