第6話 その胎内に
「妊娠した」
ユキからそのことを聞かされたのは祭から一週間ほどたったときのことだった。
「えっ?」
僕は困惑して、聞き返してしまった。
ユキはしくしくと泣き出す。
両手で顔を覆って泣いていて顔は見えない。
けれど、震える肩はあまりにも華奢で弱々しく、僕はなにもいうことができなかった。
仕方ないので、妹にするようにそっとその肩を抱く。
「お父さんには言ったの?」
少しして落ち着いたころにユキに聞いた。
ユキは力なく首を振る。
「お母さんにもいってない」
そりゃあ、そうだろう。
子供ができるなんてもっと先の話だと思っていた。
そう、高校を出て、大学に行って、就職をして――。
そんな人生のイベントをいくつか乗り越えながら、僕たちは中を深めて。
結婚の報告をして、それから……のはずだった。
なのに、それらのイベントを全てすっ飛ばして、ユキは妊娠してしまった。
「言わなきゃダメだ。お父さんとお母さんに一緒に言いに行こう」
僕がそう言うと、ユキはそっと僕の首に腕を回した。
僕たちは、またキスをした。
ただ、この前みたいに僕たちを隠してくれる闇はない。
僕が控えめに唇だけのキスでとどめようとしたのに、ユキの舌はぬるぬると僕を求め続けていた。
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