第5話 キス……それから、一つになった
「大丈夫、濡れてないみたい」
僕はできるだけ冷静な声でユキに伝える。
本当はよく分からなかった。
背中を撫でたときから分かっていたけれど、ユキは汗をかいていたから、その浴衣の奥はとても湿っていた。
だけれど、それが汗によるものなのか、彼女のいうように尿によるものなのか僕には分からなかった。
ただ、強く甘い匂いがした。
いつもの爽やかなシャンプーの香りではなく、魅力的で抗いがたい獣めいた雌の匂いがユキからはただよっていた。
僕はあわててユキから離れようとすると、ユキの太ももは僕の手を挟んで締め付けていた。
「ねえ、もっと触って?」
そういって、ユキがしなだれかかってくる。
さっき夜店でみた金魚よりも紅い唇が静かにひらく、その奥には熱くやわらかい肉の色が広がっていた。
ユキが僕に覆い被さるようにキスをしてきた。
唇を押しつけるようなキスではなく、微かに広がった隙間からお互いをむさぼり合うような湿ったキスだった。
唇を押しつけ合うキスならば、子供の頃にしたことがあるけれど、こんなキスは初めてだった。
熱いけれど、どこまでも求め続けてしまう。もっと欲しくなるキスだった。
キスというよりもお互いを求め合って、喰らい付いて、体の一部を交換してしまうようなキス……とでも言えば良いのだろうか。
そして、僕たちはさらに深い関係に進んでいった。
馬鹿みたいだけど。
好きな女の子との初めてって、もっと丁寧で大切にするものだと思っていた。
でも、ユキに求められるまま服を開けさせ、僕らは必要な部分だけで、一つになっていた。
昔の人は結婚する前にどうやってお互いの気持ちを遂げていたのだろうかと不思議だった。
だけれど、なんとなく今日のことでストンと腑に落ちた気がする。
きっと、この村でユキと僕みたいなことが昔もあったのだ。
祭りというハレの日に。
祭りの場所とは対称的な暗闇の中で誰にも見つからずにまぐわっていたのだ。
煌煌と照らされたハレの祭りの場所からはずれたぽっかりとした誰も気づかない闇の中。
お互いの一部を交換して、一つになっていたんだ。
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