種明かし-4

 保志は、口を大きく開けて笑った。


 「様子は見に行ってたんやで。でも、中でごそごそ何か作ってるなと思ってな。木製のキッチンを一生懸命作ってる最中やったみたいやな。創作意欲があるうちは死なんやろ、思うて放っといてん。で、そろそろ掘り出しに行こうと思ったら、美葉が先に見付けた。」

 「スパルタ。」

 呆れて肩をすくめた。それから、ふと気付く。


 「もしかして、最初の仕事はやっさんが紹介してくれたの?」

 「勿論。」

ニヤニヤ笑いを浮かべて首肯する。


 錬の実家の社員、今井惣助と真弓の新居に木製キッチン作ったのが樹々の初仕事だった。錬の会社の人だから、錬が紹介してくれたのだと思っていた。


 まぁ、仕事を紹介してくれたのは嬉しい。あの収入が無かったらショールームを作ることは出来なかった。ショールームを作ることが無ければ、今自分はスペースデザイナーをしていない。


 黙っていた事は気に入らないが、確かに正人は保志から職人としてあるべき姿を学んできた。自分もそうだ。駒子の茶室にしても、もう一度二人で仕事をするチャンスを与えてくれたのだと思うと感謝するべきなのかも知れない。


 「正人さん、戻ってきてくれないと困るよな。これから大きなプロジェクトが始まるのに。」

 悠人が空を仰いでため息交じりに言う。美葉は悠人の顔をまじまじと見つめた。


 「プロジェクト?」

 そう言えば、保志は自分に協力して貰いたい事があると行ったような気がする。


 保志は、にやりと笑った。


 「新風じんふぁの周りの土地、あそこに町を作るで。」

 「町?」

 美葉はかろうじて鸚鵡返しをした。悠人が頷く。


 「そう。命が見える町。節子ばあちゃんを皆で見守ったようなことが、当たり前の風景である町。人が生まれて死んでいく姿が身近にあって、誰しもが優しく繋がっていける町。」


 さぁっと風が吹き、髪が靡く。美葉の心にも風が吹いた。


 「それは……、理想郷だけど具体的にはどうやって?」

 「それはこれから考える。いろんな立場の人間が、必要やと思うものをひねり出したらええと思うんや。で、その意見をとりまとめてデザインするのは美葉の仕事。」


 「はあ!?」

 大きな声を返してしまう。また、勝手な事をと保志を睨み付けた。


 そして、胸元に人差し指と親指で丸を作って見せた。

 「そんな大仕事、ボランティアでやれと言わんやろな。」


 ぽかんと、保志と悠人は顔を見合わせた。それから、吹き出して大きな声で笑う。


 「逞しくなったなー、美葉ちゃんは。」

 悠人はそう言いながら、身体を二つに折り曲げて笑った。

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