種明かし-2

「でっかい声やなー。」


 運転席の窓が開き、保志が顔を出した。

 「やっさん。」

 思わず名前を叫ぶ。知らない人で無くて良かったと、安堵の息を吐いた。


 黒いRV車がゆっくりと門をくぐって入ってきた。白い雪の上に車輪の跡がつく。二宮金次郎の隣に停車すると、保志と助手席から悠人が降りてきた。


 「丁度良かった。力仕事手伝って。」

 美葉はパチンと両手を合せた。


 一枚板の看板は、保志と悠人に軽々と持ち上げられ、あるべき場所に戻ってきた。


 ふう、と息を吐いて眺める。


 これで、するべき事は全て済んだ。


 「正人さん、戻ってこないんだってね。どこ行っちゃったんだろう。」

 看板を眺めながら悠人が言う。

 「俺も何回も電話してるんやけどな。ずっと電源切っとる。」

 保志も悠人の隣で看板を眺めた。


 一枚板の看板が夕日を浴びて薄茜色に染まる。三人に見つめられて照れているようだ。


 美葉は小人を見つめながら言った。


 「後は正人さんが黙々と仕事をすれば片付くようにしておいた。これから先は正人さんが頑張るだけ。戻って来たらそう言っといて。」


 保志がヒューっと口笛を吹いた。


 「流石美葉。あの山積みの問題をこの数日で片付けたんか。」

 「そうよ。そして、私の心の問題も片付いた。」

 強い決意を口にしているけれど、身体のどこにも余分な力は入っていなかった。


 「私はここに帰ってくる。正人さんがどこに逃げようとも、追いかける。正人さんが樹々をもうやめるというならそれでいい。また正人さんと一緒に夢を探すだけだわ。」


 悠人と保志が、美葉の顔を見つめた。二人の視線を受けながら、美葉は看板の小人を見つめ続ける。


 「錬と違って、正人さんが行く場所は決まってるしね。おじいさんの名前は孝造さんだった。旭川で家具工場を経営している孝造さん。それだけ分かれば正人さんの居場所はきっとすぐに見つかるわ。もしこのままいなくなっても、追いかけて行ける。」


 京都に帰ったら、会社を辞めると伝えよう。涼真に邪魔をされるかも知れないが、絶対春には戻ってくる。木寿屋は居心地が良いけれど、正人の側にいなければ自分はその内駄目になる。


 正人と自分は一緒にいるべきだ。そこがここなら一番良いけれど、違う場所でも構わない。二人でいるということが、大事なのだから。


 「髭親父の会社やったら、俺が知ってるで。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る