種明かし

種明かし-1

 工房に戻り、契約を続行する家具を工房に集めて進行表を作り直し、それぞれの家具に貼り付けた。残りの家具は倉庫にしまうことにした。そのためには、体育館の倉庫のスペースを空けなければならない。


 体育館倉庫の引き戸を開けると、埃が舞いかび臭い空気が外に漏れてきた。そう言えば、樹々に出入りしていたけれど一度も倉庫に入った事は無かった。


 平均台や跳び箱、マット、高飛びのバー。懐かしくてつい見入ってしまう。そのどれもが、イメージよりも少し小さい。それだけ、自分の身体が大きくなったと言う事なのだろう。


 いずれ、中のものを処分して樹々のために使いたいが、捨ててしまうのも勿体ないと思う。今日は時間が無いので、物を動かしてスペースを作るだけしか出来ないが。


 そう思いながら倉庫の中を探っていると、ブルーシートに包まれた四角いものを見付けた。横幅は人一人分ほどあり、高さは腰くらい。触れてみると手の平に弾力を感じた。


 美葉は、ブルーシートをそっと捲ってみた。

 すると、思いもしないものが現れた。美葉は思わず息を飲んだ。



***



 家具の整理を終えて、ショールームを丁寧に拭き掃除した。綺麗になったショールームを見渡し、自分の心にもまた力が蘇って来た事に気付く。


 美葉はよし、と一つ頷きぞうきんを綺麗に洗ってから外に出た。


 下駄箱の前に置かれている看板を心を込めて拭いていく。


 一文字一文字、丁寧に彫られた手作り家具工房樹々の看板。四つ葉のクローバーを捧げ持つ小人。


 脳裏に、スマートフォンをのぞき込む正人の横顔が浮ぶ。至近距離にあった美しい横顔に心臓が止まりそうになって、慌てて離れた。


 木全正人の木と人をつなげて「こびと」と読み、アルバニアという見知らぬ国の言葉を当てはめた。この看板から少しずつ築いて行った工房を、もう一度二人で始めたい。


 丁寧に磨いた看板を、表に飾る。つもりだった。


 一枚板の看板はとても重たくて、一人ではびくとも動かない。よくもまあ、一人で抱えていたものだと正人の細い身体を思い出して呆れた。


 途方に暮れて外に出る。

 空はもう夕焼けに染まっている。


 結局、正人は帰ってこなかった。突然悲しみが押し寄せ、両手の拳を握る。


 「バカヤロー!」


 夕日に向かって声の限りに叫んだ。カラスが驚いて木の枝から飛び立った。


 通りかかったRV車が校門の前で停車する。


 「やべ。」

 思わず身体を竦めた。変な人だと思われただろうか。

 

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