本当にごめんなさい-4
藤乃の顔を見ていると、その行動が、その考えが、どれだけ自分勝手だったのか思い知る。
「まぁ……、佳音ちゃんは遠回しに居場所を知らせるように錬を説得してくれたのではないですか……?」
波子の剣幕に、聡は圧倒されたように汗をぬぐった。
遠回しに居場所を伝えようとしたわけではないが、結果的にそうなり、生きていることも確認してもらえた。
「……防犯カメラに錬の姿を見つけた時は……、心臓が止まるかと思ったわ……。あんなにうれしいと思ったことはない。佳音ちゃん、ありがとう……。」
藤乃の言葉に、胸が詰まる。
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。」
深く頭を下げる。自分のした事の愚かさに涙が溢れてくる。
「謝って済むことじゃない!」
波子がさらに大きな声を上げた。
「あんたも人の親になるんだったら、もっとよく考えなさい!」
はい、という声が出ずただ頷く。
不意に、手に暖かいものが重なった。驚いて目を上げると、皺の目立つ白い手が自分の手に重なっている。はっと息をのみ、顔を上げると、藤乃が潤んだ瞳をこちらに向けていた。その口元は微笑みを浮かべ、小さく何度も頷いている。涙で言葉が出ないのだろう。しかし、自分が息子の子供を宿したことを認め、祝福してくれているのが伝わる。
自分は、この人の娘になるのだ。
白い手が涙にかすむ。一生かけて、親孝行しよう。これまでかけた心配を償えるとは思わないが、この後の人生が幸せであるように自分にできるだけのことをしよう。
佳音はそっと自分の胸に手を当てた。
***
居間に行くと大勢の酔客の好奇心に捕まって帰れなくなるので、錬は駆け足で階段を下りて玄関の外に出た。佳音も後を追う。できれば一緒に帰りたいのだが、そうも行かない。
錬は明日も朝が早い。誰にも捕まらないように、車に乗るところを見届けたい。
しかし、玄関を出たところに、健太と正人が立っていた。錬は、観念したように後頭部をさすった。
その時だった。
佳音は、信じがたいものを見た。
陽汰が飛んでくる。陽汰の体が弧を描き、こちらに向かって飛んでくる。その両足が錬の背中の中央をとらえた。錬の体がゆっくりと地面に倒れる。その背中に、陽汰が立つ。陽汰はそのまま馬乗りになり、ポカスカと頭をこぶしでたたき始めた。
「バカ野郎!バカ野郎!」
陽汰がつぶやく。前髪から、ぽたぽたとしずくが零れ落ちてくる。
「……ごめんな、心配かけて。」
錬は、地面に顔を伏せたままつぶやいた。
正人が陽汰の両脇を抱えた。
「それくらいにしましょう、陽汰君。」
立ち上がった陽汰の肩が、大きく上下に動いている。
「ったく、なんでみんな、殴ったりけったりすんだよ。」
錬は立ち上がり、腕で顔をぬぐった。あまり泣くと干からびてしまうのではないかと心配になる。健太が、錬の首に腕を回した。
「ほら、健太だけだ、優しく迎えてくれるの……ぐえっ!」
そのまま、ヘッドロックを仕掛けてきた。俯いた健太の頬には涙の跡がある。正人が、声を上げて笑う。その頬を、涙が伝っている。
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