本当にごめんなさい
本当にごめんなさい-1
節子のお別れ会と称する集まりは、まだまだ終わりそうにない。
女達が忙しく台所で働き、男達が酒を飲む。こんな風習、早く無くなればいいのに。そう思いながら、佳音は外に出た。もう陽はすっかり暮れている。
昼間まで吹雪いていたが、それ以降はきれいに晴れて美しい夕焼け空が広がっていた。
斜陽が雲に乱反射し、紅の反物を広げたような空だった。
あの夕焼け空を忘れる事は、一生ないだろうと思う。
錬の声が聞きたくなり、電話を掛けた。
「佳音、大丈夫かい?」
電話に出るなり、錬は自分を気遣ってくれた。声を聞くだけでほっとして、優しさがじんと胸にしみる。しかし、錬の声は心なしか遠く聞こえる。
「大丈夫だよ。」
声とともに、白い息が広がる。早く帰って錬に会いたい。
「…………かい?」
電波が悪いらしく、声が途切れる。節約のために格安スマホに変えたのだが、途端に実家で使えなくなった。当別は町中ですら携帯端末の電波が届かない場所があるのだ。実家はすぐ近くに大学がある。それなのに電波が届かないなんて。田舎はこれだから困る。
「ごめん、錬、聞き取れなかった。」
「…………い、…………よ。」
声が遠くなっていく。
「錬?錬?聞こえる?」
「……わ。……だし。」
ぷつり、と通話が途絶えた。
「もう!」
通話ボタンを押し、あきらめて戻ろうと振り返った。
健太と陽汰が立っていた。健太は眉をしかめてこちらを凝視している。まずい、と思った。今更だが、スマートフォンを背中に隠す。健太が険しい顔のままこちらに向かって大きく一歩近づく。
「佳音、お前今、錬って言ってなかったか?」
「え……。」
うまくごまかさなければと思うけれど、言葉が出てこない。
健太の手が、肩を掴んだ。
「錬って、言ったよな。」
「……。」
顔をそむけることしかできない。
その時、大きな手が健太の手を掴み、佳音の肩から引き離した。その手をよく知っている。
「妊婦に乱暴すんな。」
喪服姿の錬が、健太の横に立っていた。
「錬!?」
陽汰が錬を見上げて驚いた声を上げる。錬は、陽汰に軽く手を上げた。
「ごめん、先に節子ばあちゃんに線香あげてくるわ。」
そう言って、錬は背を向けて玄関のほうへ歩き出した。
「錬、待って。」
慌てて追いかけ、肘を掴む。錬は、佳音を見下ろして頬笑んだ。
「ついでに、挨拶も済ませようと思うんだけど、いいかい?」
錬の強い決意が、微笑みの後ろに隠れている。佳音は頷き、顎を引いて前を向いた。
錬の勇気を、支えなければと強く思う。
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