どうすんの、これから-2

 「いい!?あんたのそのこそこそ逃げ回る人生に佳音を巻き込んだら許さないからね!!」


 大声でまくし立てていた。店の客の注目を浴びているのが分かり、はっと我に返る。静かに席に座りなおし、アイスコーヒーをすする。京都に住んでから、勢いで行動してしまう癖が付いてしまったように思う。


 佳音の手が、そっと美葉の肩に触れた。少し濡れた瞳で、ほほ笑んでいる。先ほどまでの心細そうな佳音ではない。もう、心を固めたと、その瞳が告げている。


 「ありがとう、美葉。」

 佳音は小さな声でそう言ってから、錬のほうを向いた。


 「錬。私は、子供を産むし、錬と離れるつもりもない。もし、錬がどこかに逃げるというのならついていく。でも、できることならそうしたくない。みんなに、この子の誕生を祝福してもらいたい。」


 佳音は、自分の両手を下腹部におき、愛おしそうな視線を向けた。

 佳音の声に力がこもっている。美葉はほっと安堵の息を吐いた。そして、体を小さく丸めたままの錬を見つめる。


 巨大なスーツケースを転がしながら四人の男女がカフェに入ってきた。喧嘩をしているのかと思うような強さで異国の言葉を交わしている。その顔は皆ニコニコとしている。


 彼らは隣の席に座った。


 騒々しい様子に思わず目を奪われていたが、喧騒が収まると錬は俯いていた顔を上げた。そして、力のこもった瞳で佳音を見つめ返した。


 「分かった。佳音を幸せにする。佳音の幸せは佳音の家族みんなの幸せだってことも、わかってる。俺、逃げ回るの、やめるわ。」


 頷いてから、美葉のほうを見る。

 「ありがとうな、美葉。……おまえ、相変わらずすげー迫力だな。」


 美葉はストローをくわえたまま、思い切り錬のすねを蹴った。


 言葉にならない悲鳴を上げ、錬がテーブルにうずくまる。隣の席の客達が、異変に気付いてこちらに視線を送ったが、直ぐに興味を失い異国の言葉をけたたましく交わし始める。


 ほっと息をつく。すべてうまくいった。そう思ったら、思いがけず涙が出てきた。


 「バーカ。大体、なんで相談せずにいなくなったりするのよ。ほんと、バカ。」

 「……ごめん。」


 錬がゆっくりと顔を上げた。

 「本当に、ごめん。心配かけて、ごめん。」

 大きな体を二つに折り曲げるように、頭を下げる。その頭に、こつんとげんこつを落とした。


 「私の大事な佳音を、幸せにしたら許す。」

 「……はい。」

 錬の頭が、こくりと頷いた。


***


 次の日の夕方、その知らせが入った。


 祖母が亡くなったという、母からの知らせだった。

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