どうすんの、これから
どうすんの、これから-1
錬との待ち合わせ場所に選んだのは、新千歳空港三階にあるカフェだった。緑色の壁が印象的なカフェの中に入り目をこらすと、店の一番奥に身体を小さく丸めるように座っている錬の姿を見付けた。
ああ、生きていた。本当に、生きていた。
喉の奥に急激に押し寄せて来る涙を無理矢理押さえつける。
「お二人様ですか?」
声を掛けてきた女性店員に軽く手を挙げ、厳しい表情を作る。その顔のまま、錬の所へ歩いて行く。錬は美葉の姿を見付け、ぎょっとした表情を浮かべた。美葉は片方の眉をつり上げてから、向かいの席に座った。
「久しぶり。」
わざととげとげしく声を掛けると、錬はうつむいたままさらに体を小さくし、右手を挙げた。佳音が、おずおずと自分の横に座り俯く。
妙な沈黙が流れる。注文を取りに来た店員に佳音はココアミルクを、美葉はアイスコーヒーを注文した。それきり、誰も言葉を発せずお互いに目をそらしている。
美葉は腹の辺りがイライラと沸き立ってくるのを感じた。黙っていても仕方がない。美葉は息を一つはいてから口を開いた。
「佳音、まずは錬にちゃんと報告して。」
声を掛けると、佳音は俯いたまま顔を赤くした。もじもじと指を動かしている。
じれったいな、と思う。関西に住んで気が短くなったかもしれない。あの気質は、多分空気感染する。
「……私から、言っちゃうよ?」
わざと意地悪い口調で言う。
「それはダメ!」
佳音はやっと顔を上げた。美葉は佳音の赤い顔に小さく俯いた。佳音は、心細そうな瞳で小さく頷き返した。そして、錬のほうを見る。指はまだ、もじもじ動いている。
「錬、私……。赤ちゃん、できた。」
聞き耳を立てないと聞こえないほど小さな声で、佳音がそう告げた。
錬の口が小さく開き、頼りなく小さい目が大きく見開かれる。
そこに、みるみる喜びの色が浮かび、口角が持ち上がっていく。
「まじで?」
身を乗り出して、佳音に問う。佳音は、戸惑いながら小さく俯いた。
錬は両手のこぶしを思い切り握った。そのこぶしを、高くつき上げる。飲み物を運んできた店員が唖然として立ち止まった。
「やったー!」
店中に響くような大声で、錬がそう言った。
「や、やったあ!?」
佳音が、ぽかんとそのこぶしを見上げた。美葉も口を半開きにしたまま長い腕を見上げる。錬は、溶けてしまいそうなほど嬉しそうな顔をしている。
「やったあ、じゃ、ないでしょ。」
美葉はため息交じりに錬に向かって言った。
「どうすんの、あんたこれから。」
「あ……。」
錬は両手を膝に戻し、しゅんとして俯く。その頼りない顔を見ていると、ふつふつと怒りが込み上げてきた。思わず、両手をバンとテーブルに着き、立ち上がった。
「いい!?あんたのそのこそこそ逃げ回る人生に佳音を巻き込んだら許さないからね!!」
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