相談-2
元来美葉は、常に元気ではつらつとしていた。それは美葉の良さでもあったが、苦手だと感じることもあった。
頭の回転が速くて気が強く、自分の意見を強引に押し通すようなところがある。同じような気質の健太とよく喧嘩をしていた。美葉のテンポに鈍臭い部類に入る自分がついて行くのは辛いと思う時期があった。
母親が亡くなってからは、美葉の持つ膨大なエネルギーは「家業の手伝いと家事と勉強の両立をし、ランクの低い地元の高校に通いながらも公立大学に合格する」という事に向けられていた。
それが、正人と出会ってから変わった。
どう見ても頼りない家具職人の工房を手伝い、見事なショールームを設計し、高校生ながら建築デザインの仕事を始めたのには度肝を抜かれた。しかし、そのエネルギーはそれまでのようにギラギラしておらず、柔軟で柔らかなものに変わっていた。
正人の影響であることは間違い無かった。
正人は優しく包容力のある人だ。そのあまりある優しさを、全て美葉に捧げていた。正人は常に美葉を微笑んで見つめていた。その愛情溢れる眼差しが、美葉の周りにあるとげを溶かしていったのだと思う。
でも今は、正人に出会う前の美葉に戻ってしまっているように思う。
「美葉は、どうして当別に帰ってこないの?」
思わず口から出た言葉に、美葉はきょとんとした。それから、苦笑いを浮かべる。
「……仕事が激務過ぎてさ。」
曖昧な言葉の裏に、何か複雑な事情が隠れているように感じる。問いただそうと口を開けた途端、美葉がさえぎるように首を横に振った。
「私の心配はしなくていいの。今日は、佳音の話を聞きたい。わざわざ京都に来るほど、何か大きな問題が起こったんでしょ?どうしたの?」
美葉の問いかけに答えようと思うのだが、言葉をうまく見つけられず、テーブル上のナポリタンに目を落とす。
「この前、電話口で泣いてたでしょ?その件?」
「ああ……。」
思わず、声が漏れた。小野寺に暴力を振るわれていた時のことだ。今でも時々記憶がよみがえり、寒気がしたり動悸が激しくなったりはするが、遠い昔のことのようにも思える。
「それはもう、済んだこと。」
何があったのかは、美葉にはまだ伝えていない。いずれ、直接会った時に話そうと思っていた。けれど、今話してしまうと本当に言いたいことにたどり着けなくなってしまいそうだ。
「佳音……。」
名を呼ばれて顔を上げると、美葉が険しいまなざしをこちらに向けていた。
「何か、悩んでいるんでしょ?顔見たら、わかるよ。」
はっと、息をのむ。
「話してみて。どんなことでも、力になるから。」
美葉は力強く頷いた。美葉は、いつでも、どんなときでも自分の味方でいてくれた。一方的な焼き餅で遠ざけてしまったこともあった。それでも、美葉は自分に心を寄せてくれていた。
心臓の辺りに熱がわいてくる。その熱を頼るように口を開いた。
「……妊娠、しちゃったの……。」
押し出した言葉に、美葉が息をのんだのが分かった。
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