相談

相談-1

 部屋の中に入ると、美葉は会社の制服から部屋着のスエットに着替えた。その姿に違和感を覚える。


 まっすぐで艶のある自慢の髪はバッサリと肩の下で切られ、無造作に黒いゴムで束ねられている。おしゃれな美葉が制服で帰宅するなど、考えられないことだ。それほど、急いで帰ってきてくれたと言うことだろうか。


 美葉は小さなテーブルいっぱいにコンビニで買ったらしい総菜を並べた。この光景にも違和感がある。美葉とコンビニの惣菜など、どう考えても結びつかない。


 美葉は中学の時に母を亡くして以来家事をやっていて、料理がとても上手だ。料理に関しては手を抜いた所を見たことがない。


 昔健太の父が足を悪くして、健太が父の代わりに農業を手伝ったことがあった。学校を退学するかも知れない友人を、皆で夜を徹して手伝っていた時も、一人一人に「幕の内弁当」と呼べるような栄養満点の弁当を用意し、その上父親と隣人の正人に夕食を整えていた。


 今日は、突然の訪問だから、準備が簡単な鍋料理が出てくると勝手に思っていた。二人で鍋の用意をしながら、錬との子供を妊娠したと伝えようと思っていた。


 オムライスにナポリタン、唐揚げにスナック菓子。


 栄養のバランスも取れていない。美葉はレジ袋からビールの缶を二本取り出して、一本を佳音の前に置いた。


 「あ、私自分のあるから。」

 慌てて鞄からほうじ茶のペットボトルを取り出す。美葉がきょとんとした顔をした。


 「酒豪の佳音が飲まないなんて。」

 「夜勤明けで疲れてるから。これ、美葉にプレゼント。」

 ほうじ茶をもう一本鞄から取り出して美葉に差し出す。美葉の顔がぱっと明るくなった。


 「セコマのペットボトルー!懐かしー!」


 北海道にしかないコンビニのペットボトルを右手に持って、蛍光灯の明かりにかざす。元気な美葉を見ていると、自分も元気になる。


 でも、少しやせたように見える。元々スリムだったけれど、不健康に見えるほどさらに痩せている。目の下にクマがあるし、肌もカサカサして粉を吹いている。高校生の時メイクのプロから教わったスキンケアをずっと続けていた美葉の肌はきめ細やかで、メイクをしなくても頬が艶を放っていた。今は、その面影も無い。


 でも表情は明るくて相変わらず生き生きとしている。美葉は缶ビールをプシュッと開けて佳音のペットボトルに押し当てた。


 「久々の再会にカンパーイ!」


 そう言って、一口だけ飲んでから割り箸を割った。美葉はあまりお酒に強くない。自分に合わせて買ってきてくれたのに、申し訳ないなと思う。


 「で、相談って何?何かあった?」

 美葉が身を乗り出して問いかけてくる。


 テンションが高い。


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