本当のアンティーク
本当のアンティーク-1
ほのかに山吹の色味が残る茶色地に、小萩の吹き寄せ模様の入った着物を着て、厚手のショールを肩に羽織る。髪は結い上げ、小菊を模したつまみ細工の髪飾りを付けた。
レクサスの助手席を降りようとすると、いつの間にか回り込んできた涼真が右手を差し出してきた。
「大体、なんで社長が来るんです?茶室にはノータッチだったくせに。」
無下にもできず、その手に自分の手を預けて車を降りる。
「尊敬する師匠の茶室、いの一番に見たいやん。」
涼しげな顔で言う涼真は、暗灰色の袴に灰色のお召し着物を合わせ、紺色の羽織を羽織っている。
今日は、駒子の茶室の引き渡しの日だ。引き渡しがすべて終わってから茶席が設けられるため、和服を着ていく羽目になった。
茶席には、ゼンノーの田中氏と、家具職人が招待されているという。結局どちらとも顔を合わせることはなかったので、会うのが楽しみだ。その茶席になぜか、涼真も急遽加わることになったらしい。
竹垣と数寄屋門が見える。その前に克子が立ち、こちらに頭を下げている。
涼真と美葉も一礼した。
緑色の瓦に、細かい格子戸の門。北山杉の表面を
「お待ちいたしておりました。本日はどうぞよろしくお願い致します。」
克子はもう一度丁寧に頭を下げ、門を開けた。
「この門、母は感激いたしておりました。茶室の顔としてとても上品でよろしいと。」
「そうですか。喜んでいただけて安心いたしました。」
克子に頭を下げ、門をくぐる。
「もう、お二人はいらっしゃっております。まず茶室へまいりましょう。」
静々と飛び石の上を進んで行く克子の後ろを歩く。
紅葉が赤く染まっている。松の木の深緑と白い敷石が赤を引き立てる。日本庭園は秋が最も美しいのかもしれない。待合の建物を眺める。
待合も聚楽壁にして正解だった。古い日本庭園の中にあっても、浅黄色の聚楽壁は風景に溶け込んで見える。
庭園を進むと、くちなしに守られるように蹲が佇む。そこで涼真が立ち止まり、柄杓を手に取った。竹から流れる清流をすくい、手を清める。美葉もそれに習った。いつも袖をぬらさないか気を遣う。
克子に導かれるまま、茶室の小さな入り口の前に立つ。
「なるほど。」
涼真が思わず、といったように笑い声を立てた。
躙り口を見てのことだろう。
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