奇跡だよね
奇跡だよね-1
暫く無言で佳音のハスラーを運転していた錬は、ホームセンターとスーパーがある大きな駐車場に車を停めた。
パーキングにシフトレバーを入れた後、フーっと息を吐き、険しい眼差しを佳音に向けた。
「一体何があったのさ。」
錬の指が頬にそっと触れる。そこは小野寺に殴られた場所らしく、ピリリと痛みが走り、思わず顔をしかめた。
「痛いのか?」
心配そうに顔を覗きこむ。
今目の前に錬がいて、その手が自分に触れている。
奇跡のようなこの瞬間に胸が熱くなる。
佳音は首を横に振った。
「……錬、ピンチの時に現れるスーパーヒーローみたいだった。」
「嫌……。」
錬は、照れ臭そうに目を泳がせた。それから、急に真面目な顔になる。
「心配して、毎日仕事の合間に様子を見に行ってたんだぜ。LINE既読付かないし、仕事突然辞めたって聞いたし。」
え、と佳音は目を見開いた。
「誰から、聞いたの?」
「……えっと、名前なんつったかな。うちのバイトの子。佳音に良く似た。」
「芽依ちゃん?」
「あー、そうそう。」
大きく頷き、少し不機嫌な顔になる。
「あの子に、俺の事話したべ?」
「ええっと、まぁ……。」
今度は佳音が目を泳がせる。
何故話したのかと聞かれたら、理由は言えない。
「……私は、芽依ちゃんから、錬がいなくなったって聞いて、心配してたのよ。」
理由を聞かれないように話の流れを変える。錬は困った顔をした。
「……心配しないようにLINEはしてたんだぜ?」
錬は小さなため息をついた。
「佳音に飯行くの断られた時からさ、もしかしたら彼氏いるのかな、とは思ってたけど、実物見たらへこんださ。」
伏し目がちな横顔に、胸が高鳴る。
錬は、もしかしたらまだ自分を想っていてくれるのだろうか……。
「休みの日、気晴らしに富良野に行ってきたんだよ。僻地の薪釜のパン屋目指して。……そこのパンがうまかったんだー。で、短期の修行させてくれないか頼んでみたんだ。――いやー、偏屈な爺さんでさー、今からなら修行させてやると来たもんだ。
ダメ元で店長に相談したら、わりと快くOKくれたんだ。後で揉めないように他店で修行してるの内緒にしてくれたんだけど、かえって誤解生んだみたいで。戻ったら辞めたと思ってる人がいて驚いたさ。」
佳音はポカンと口を開けていた。
なんてお騒がせなパンオタク。
照れ臭そうに話をしていたが、ふと錬が真剣な顔になる。
「心配しないように修行で暫く店にいないこと、LINEで知らせたのに既読つかないし。彼氏が現れたのも何か変だし。あん時の佳音の様子も変だったし。バイトの子が誤解解きに会いに行ったら突然仕事辞めたって聞いてショック受けてるし。」
錬は、ぎっと奥歯を噛み締めた。
「あのおっさんと喧嘩してたのか?それにしては、凄い音だった。何があったんだ?」
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