仲間を救え!
節子ばあちゃんの子守歌
節子ばあちゃんの子守歌-1
このところ毎日、小野寺の機嫌を損ねてしまっている。一番ひどかったのは、健太たちがやってきた日だった。一時間近く指導を受け、性的な折檻も受けた。翌日にかけて生理でも無いのにナプキンが必要なほど出血した。
きっぱりと追い返さなかったからだ。自分が悪いのだ。
小野寺の機嫌を損ねる大きな原因は、母からの電話だった。節子が入院したのに一度も見舞いに来ないので、さすがに母も心配になったようだ。
一度顔を見せるようにと、何度も電話をかけてくる。小野寺はそのたびに機嫌を損ねる。しかしさすがに母の連絡先は削除せずに残してくれている。
小野寺の優しさに感謝するしか無い。帰郷の促しを断るのはいつも胸が苦しくなるが、母の声を聴くと少しほっとできるのだから。
小野寺と食卓を囲む。スーパーで当別産のかぼちゃを見つけて思わず購入したが、調理するときに手が滑り指を切ってしまった。最近、何も原因はないのに手が震えることがある。深く切ったようで、絆創膏を付けていても血が滲んいる。小野寺は煮つけがうまいとほめてくれた。安堵するが、喉がつかえて自分は食べる気になれない。
食事を終え、片づけをしようと立ち上がろうとした時だった。
「佳音、今度の休みに、お婆さんのお見舞いに行ってきなさい。」
小野寺が穏やかな声でそう言った。
「え……、いいの、ですか……?」
震える声で問う佳音に、小野寺はにっこりとほほ笑んだ。そして、立ち上がる。反射的に、身を固くした。しかし小野寺はすっと佳音の横を通り抜け、鞄から茶封筒を取り出した。
「そして、ご家族にお婆さんをここに転院させるように勧めなさい。」
震える手で、茶封筒を受け取り中を見た。封筒の中には、病院のパンフレットが入っていた。思わず眉を寄せる。市内でも評判の悪い病院だ。ここに入院すると一日中ベッドに寝かされ、体位変換もろくにされないと聞く。
「療養病棟のベッドを一つ、押さえてもらったんだよ。ここに入院すれば、退院を迫られないからとても評判が良いんだよ。ベッドを押さえておけるなんて、特別待遇だ。早急に、話を進めなさい。おばあさんを引き取ってくれるところが見つかれば、お母さんも安心して頻繁に電話してくることもなくなるだろう。……このところ、佳音は集中できていないからね。」
小野寺の両手が、頬に充てられる。
「あ、あ、あ……。」
ありがとうございます。
そう言おうとして、声が引きつってしまう。小野寺が、眉をしかめる。
佳音は慌てて、声を押し出した。
「あ、ありがとう、ございます。こんなに、お気遣いをいただいて……。」
「当たり前だろう?大切な佳音のためだからね。」
小野寺は優しく微笑み、唇を寄せた。
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