涼真の企み-3
涼真は、ゆっくりと頷いた。
「最近、大型の施設が木造で建築されるケースが増えてるのは、知ってる?」
美葉は、大学で学んだ事を思い出して頷く。
「木造建築は二酸化炭素を吸着して地球温暖化対策として一躍かうから、ですよね。それに、建築にかかるエネルギーも鉄骨よりも少なくて済むから、建築中の二酸化炭素排出量も少なくてすむ。」
ふんふん、と涼真は頷く。
「相変わらず美葉ちゃんはお利口さん。その通り。最近は強度や防火の対策をされた木材も増えて、今まで鉄骨で作っていた大型商業施設の一部を木造にすることが可能になった。国立競技場しかりね。
それに、日本の森林は皆使い時の樹齢五十年に育ったところ。これから、ええ状態の木をどんどん使って、新しい木を植えるという循環を効率ようしていかなあかんねん。」
「そうなんですね。でも、国産の木材って高いんですよね。」
「その通り。日本の林業が衰退したんは、折角植えた木が売れへんようになったから。
海外の安い木材を輸入して、家を建てるようになってしもうたから、林業のうまみが無くなり、管理する人が減り、森林が荒れ果てていく。そういう悪循環に陥ってんねん。
でも、時代は変わる。」
涼真は、人差し指を立てた。
「最近、建築資材として木材が見直されたと同様に、国産の木材の価値も見直されてきた。以前は木材は輸入するもので輸出するものでは無かった。それがここ数年はぐっと海外への輸出量が増えてきた。
こういう、時代の節目ってな、ビジネスチャンスやねんで。」
「そうなんですか。」
美葉は身を乗り出した。
「何と言っても家は創業百六十年の、木材界では老舗中の老舗。ええもんの目利きもコネクションも他の業者と頭一つも二つもずば抜けてる。その力を、このチャンスに生かすんや。」
「どうやって?」
涼真は、にやり、と笑った。
「美葉ちゃんの生まれ故郷は、田園地帯で、地消地産って大事にしてるやろ?」
「勿論。」
美葉は大きく頷いた。
「だって、他で買うより新鮮で美味しいんですもん。野菜だけじゃ無くて、魚も肉も、取れる場所で食べるのが一番美味しいと思います。」
「そうやんなぁ。北海道イコール蟹が旨いと思っている人多いけど、札幌で食べる蟹で満足する人は素人。やっぱり網走あたり、オホーツク方面に行かんとね。――で、木材もそうやと思う?」
美葉は、うーん、と唸った。
「日本という規模で言えば、地消地産がいい。でも、木材が取れる地域で地消地産といわれても、供給量と需要量が釣り合いませんよね。」
「そう。だから、生産地で取れる上質な木材を必要としている人に売る仲介業者が必要なんや、うちみたいに。
でも、皆と同じ事をしてたら、発展せぇへんやろ?そやから、上質な木材を使った上質な空間を提供する『スペースデザイン事業部』がうちの要になるんや。」
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