涼真の企み-2
美葉は厚焼き玉子をかまずに飲み込んでしまった。食道の途中で止まりかけた塊を、慌てて水で流し込む。
「そんな驚かんでも。もう僕の気持ち知ってるくせに。」
飄々と言う涼真に、美葉は正面から向き合った。そして、大きく息を吐く。
はっきりと、断らなければ。自分には正人という好きな人がいる。涼真がいくら気持ちを寄せてくれても、それに応えることは出来ない。
そう思い、開きかけた唇に涼真の人差し指がそっと触れる。思いがけない感触に、はっと息をのんだ。
「ちょっとくらい、時間ちょうだい。せっかくのランチデートやねんから、僕のPRタイムにさせてぇな。」
「でも……。」
狼狽える美葉に、涼真は極上の微笑みを返す。
「今日は、僕の仕事に対する思いとか、夢について語らせてくれへん?」
「社長の、夢、ですか?」
「そ、男のアピールポイントは、やっぱり仕事やろ?」
そう言って、目配せをする。
そう言えば。
涼真とは、何度も二人で食事をしたことがあった。涼真はいつも美葉に寂しくは無いか、困ったことは無いかと聞いてくれていた。
「そう言えば、社長はあんまり自分の話、してくれてませんもんね。」
涼真は、小さく頷いた。
「一応ね、高校卒業したばっかりの娘さんを遠い場所に連れてきてしまったから、これまでは美葉ちゃんの話をできるだけ聞いてあげようと思ってたんや。親元を離れて寂しい思いをしているんとちゃうかな、とか、仕事のことで困ってないかな、とか。」
突然涼真はガラスのテーブルに肘を突き、その手に額を押しつけた。そして、くっくっくと身体を震わせる。
「でも、美葉ちゃんはいつも新しく覚えたことや興味のあることをキラキラしたお目々で語ってくれてね。そのお口からネガティブな言葉が飛び出したことは一度もあらへん。」
「……おばかだと、思ってません?」
「思ってません。そういう所が、大好きなんです。」
ストレートな言葉に、美葉は顔をほてらせる。
何故こんなにも、この人は自分の気持ちをストレートに伝えてくるのだろう。
自分を見つめているであろう細められた瞳をチラリと見る。涼真の目は白目が透き通るほど白く、大きな黒目を殊更印象深くしている。その瞳には常に自信が満ちあふれている。
正人とは、正反対だ。
ニアミスのような言葉を言っては、顔を赤くして誤魔化してしまう。
美しい顔立ちと、人並み外れた感覚の鋭さ、明晰な頭脳、家具職人としての一流の腕。
人が手を伸ばしても届かない物を沢山持っていながら、自分に対する自信は紙切れ一枚ほども無い。
あらゆるもの全てをひっくるめて好きなのだけれど、時々、じれったくなる。
「でね、ここからが本番。」
涼真は姿勢を正して真面目な顔をした。真正面から美葉を見つめる。
「な、何ですか?」
美葉はその強い眼差しから思わず視線を逸らしてしまう。
「僕の夢の話。」
「夢?」
「そう。それも、ほんわかした夢やないで。実現可能やと思っている、目標。」
「目標……。」
美葉はごくりと唾を飲み込む。
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