駒子の茶室-2

 「ところで、立て替えはるのは茶室だけですか?寄付よりつきも全て?」

 「ええ。庭以外、全て。えらい古うなってしまって。娘が今後も使うでしょうから、私が生きているうちにきちんとした物をこしらえて、後世に残しておきたいんです。こういう、日本古来からの文化はこれからまがい物になってしまうでしょう?」


 「克子さんが、跡をお継ぎになるのですね。」

 外見は駒子こまこによく似ているが、控えめな中年女性の顔を思い浮かべる。


 「息子さんは?」


 涼真りょうまの言葉に、駒子は苦々しく顔をゆがめて首を横に振った。


 「あの子は京都に寄りつこうともしませんわ。」

 「でしょうね。」


 涼真がくっくっと笑う。駒子には息子と娘が一人ずついる。息子は自由奔放で家を出たきり戻ってこないと聞いたことがある。


 「師匠のところには幼少期からお世話になっているから、娘さんも息子さんも僕にとってはお兄さんとお姉さんみたいなもんなんです。」


 涼真は美葉みよの方を見ていった。駒子は息子と仲があまり良くないようで、少し気分を害したようだ。無言でくるりと向きを変え、門を開けた。かわらひさしがある立派な作りだが柱が腐食しているように見える。


 「この門も、大きな台風が来たら倒れてしまうかも知れませんからね。」

 「そうですね。風格があって新しくするのは勿体ない気がしますけれどね。」


 涼真が、朽ちた柱に手を置いた。


 門の向こうには、飛び石が並んでいる。飛び石はしめっていた。駒子が涼真のために打ち水をしておいてくれたようだ。


 美葉は無意識に飛び石から飛び石にぴょん、と飛んだ。途端に、駒子がきっときつい目を向ける。


 「美葉さん。飛び石は、お客様の履き物が汚れないようにというおもてなしの気持ちが込められているのです。石と石は、和服を着たときにちょうど歩きやすい距離に置かれていたり、庭の見所で立ち止まるように誘導したり、細かい配慮が成されている物。あなたがお転婆するための物ではありません。」


 「すいませんっ!」

 首を竦める。涼真が、クスクスと笑った。

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