スペースデザイン事業部-3
去年の夏、年度一杯で会社を辞めて故郷へ帰ろうと思い、その事を社長の
大学も卒業したし、五年も仕事をして、一通りのことは覚えたつもりだった。
それに。
『僕には心に決めた人がいますので』
その言葉を聞いた時、自分の中にずっとあった感情に名前が付いた。
自分は、
あの、皆で放送を見た翌日、正人は新千歳空港まで車で送ってくれた。その道すがら、
『次に帰ってくるのは、シルバーウィークですかね』
しかし、正人が言ったのはその言葉だった。
思えば、正人はずっと自分の気持ちを伝えることを先延ばしにしてきた。京都に行くことを勧めたレクサンド記念公園で言葉を濁してからずっと。
もう、待つのはうんざりだ。自分の気持ちは、決まっている。正人の気持ちも、多分。だったら、なぜ遠回りしなくてはいけないのだろう。自分は正人といたいのだ。修行期間ももう終わりにしても良いくらい、実力が付いたはず。
それが思い上がりだったのだと、最近思う。
だから、受けられる仕事は何でも受ける。数をこなせばそれだけ早く実力が付くはずだ。
美葉は腹を括り、仕事に専念することを決めた。
「皆さん、おはようございます」
オフィスのドアが開き、涼真が顔を出した。全員、立ち上がっておはようございます、と頭を下げる。
「スペースデザイン部は少数精鋭の頼もしい部署ですからねー。今日も頑張ってくださいね」
ブリオーニのスーツをそつなく着こなし、爽やかな笑顔を一人一人に向ける。
「社長、決済お願いします」
「全く、このはんこ文化、早くなくなったらええのにね」
美葉に向かって笑いかける。ほんのりと、ネロリの香りがする。微かに甘く、ほろ苦い香り。
そりゃあ、モテるわ。
微笑み返しながら、美葉は思う。
大手企業の令嬢や、歌舞伎役者の娘、モデルやキャビンアテンダント。涼真が女性を連れ歩いている姿が度々目撃されている。三十六歳になる若社長がいつどのような女性と身を固めるのか、
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