スペースデザイン事業部-2
「
「ちゃんと三時間は寝てますし、アミノ酸とかビタミン配合ゼリーでばっちり栄養摂ってますって。」
「睡眠時間が少なすぎ。それに、また机に突っ伏して寝たやろう。顔に服の跡が付いてるで。食事はちゃんと噛んで飲み込む物を食べなさい。ゼリーはあくまでも補助食品。主食にしたらあかんのよ。」
「だって、下手に作った物より、最初から必要な栄養がそろった物を摂る方が効率が良いでしょ。」
高校を卒業するまでは、あんなに料理が好きだったのに今はする気がしない。自分一人しか食べないと思うと、面倒な気持ちが先に立ってしまうのだ。
「身体壊すで、そんなんしてたら。……はい、できました。」
佐緒里が、にっこりと笑う。
「佐緒里さん、ありがとう。もう、大好き。」
投げキッスを贈ると、佐緒里がげんこつを頭に置いた。同時に「カッ」と舌を鳴らす。
「
「出来ましたよ。家でやりました。メールで送ったんで、確認してください。」
片倉は眼鏡を人差し指でくい、と上げてから無言でパソコンを開いた。
「私にも見せてください!」
見奈美が片倉の後ろに回り、パソコンをのぞき込んだ。
「わー、かわいー!」
見奈美が歓声を上げる傍らで、片倉がフンと鼻を鳴らす。
「なんでお前はいつもいつも、奇を狙うんや?」
「狙ってませんよ。」
フン、と鼻を鳴らし返す。
「じゃあなんや、この壁のはではでな木ぃの絵。」
「絵に見えますけどね、これは身長計なんです。枝に数字が書いてあるんですよね。」
「ふーん、なんで木ぃなん。キリンの方がええやん。壁のあちこちに動物のオブジェがあるやん。これ、動物園をモチーフにしたんやろ。」
ぐ、と言葉に詰まる。確かに、木にしたのは思いつきだった。キリンの方が、全体のコンセプトに合うかも知れない。
「キリンにしますよっ。他に何かありますか?」
片倉は細かいので後からいくらでも指摘が入る。その度に修整するのは面倒だ。
「梁の色がうるさい。多色使いする意味が分からん。どうしても色を使いたいのならもう少しトーンを落とさんか。子供が興奮するやろ。大体この派手な梁とイエローバーチのフローリング、色がうるさすぎ。ここで無垢のフローリングにこだわる必要性がどこにある。クッション性のある合板の方が合理的。椅子の素材、なんや?感染症対策は大丈夫なんか?おもちゃもそうや。皆が使うもんは、みんなで病気うつしあいするやろ。安易に市販のおもちゃで退屈しのぎするんやったらプロにデザイン頼む必要性無いやろ。そういうの使わんで子供が楽しく過ごせる空間を創るんがスペースデザインやろうが。」
片倉の指摘を無言でメモする。その指に力がこもっていく。
「美葉さん、メモ帳、破れてますよ。」
一恵が青い顔して言った。
「あ、ほんとだー。」
美葉は笑顔を顔に貼り付けて応じた。
腹が立つ。
片倉は絶対に褒めない。至極まともな指摘を、くどくどとしてくる。まともなだけに、言い返せない。
結局、まだ自分は未熟なのだ。
そっと、ため息をつく。
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