スペースデザイン事業部

スペースデザイン事業部-1

 石塀小路いしべこみちにある、カフェ木寿屋もことやの二階に、オフィスがある。


 カフェの階段を上がると無垢のフローリング資材のショールームが現われる。オフィスはショールームを突っ切った奥側にある。修学旅行の時、初めて古材を見た場所だ。今はショールームとオフィスは壁で仕切られている。


 ここが、「スペースデザイン事業部」。


 無垢のフローリングと古材を中心に建築用の木材を卸す木寿屋では異質なチームかもしれない。木寿屋の取り扱う資材を使ったリフォームや注文住宅のデザインを請け負う部署だ。


 「おはようございます!」

 オフィスのドアを開ける。

 スチール製の机が、五つ並んでいる。


 すでに美葉みよ以外の四人が席に着いていた。一恵かずえという若い女性は、カフェの管理とショールームでの商談を請け負う。


 木寿屋の本社は桂川沿いにある。観光地である石塀小路のこのオフィスは、社長の涼真りょうまが「無垢のフローリングを身近に感じてもらえるように」と観光客向けのカフェをつくり、そこにショールームを併設したものだ。いわばサテライトショールーム。カフェに来たついでに、気軽に無垢のフローリングを見てもらうのが主たる目的だが、立地条件が良いため商談の場所としてもよく利用される。


 見奈美みなみという美葉と同じ年の女性は、美葉の影響を受けて今年から建築デザインの勉強を始めたところだ。年は同じだが、大学卒なので入社二年目となる。


美葉は高校を卒業してすぐに木寿屋に就職した。仕事をしながら独学で建築デザインを学ぼうとしていた。しかし、入社してすぐに独学では限界があると悟り、通信制の美術大学で建築デザインを学んだ。


 見奈美は美葉と同じ通信制の大学に今年から通い始めたのだ。


 「美葉、制服通勤は百歩譲って良いとしてもやね、メイク位してきなさいな。社会人としてのたしなみやで。」

 そう言って眉をつり上げるのは佐緒里さおりだ。美葉よりも一回り年上で、経理、人事を含めた部署全体の事務を担当し、チームをまとめている。


 「お願いしまーす。」


 美葉は佐緒里に姉のような親しみを感じていた。鞄からポーチを抜き出すと、キャスター付きの椅子を足で漕いで行き、佐緒里の前に顔を差し出す。佐緒里は肩をすくめて美葉のポーチからメイク道具を出し、ちゃっちゃと手を動かした。


 「そんなんは、家でしてこんか。」

 片倉かたくらが銀縁めがねの中で狐目を更につり上げる。


 「だって、佐緒里さんにしてもらう方が確実に早くて仕上がりも良いんですもん。」


 片倉には小言を言われなれている。


 片倉は美葉と同期入社だが、その時すでに十年の職歴があった。保志の知り合いらしく、スペースデザイン事業部立ち上げにあたり、スペースデザインの実務と美葉の教育を請け負うことになった。今では、美葉もプロとしてデザイン部門で働いているが、未だに未熟者扱いをする。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る