向日葵の恋-2
身体に負担を与えると病状を悪化させる可能性があり、その上日差しを避けなければとなると、日常生活はとても窮屈なものになる。
それでも、芽依は明るく笑う。
「今のところ、大丈夫。入院したくないから無理はしないよ。ねぇ、それより、佳音さんに聞いて欲しいことがあるの!」
芽依は
「好きな人が出来たの!パン職人さん。」
芽依はそう言って、唇の端に恥じらいを浮かべた。その瞳はキラキラと輝いている。恋をしている人の、潤んだ瞳そのものだ。
芽依とは入院中に恋の話もした。芽依の恋愛観はとても悲観的で聞くだけで胸が痛くなるものだった。
全身性エリテマトーデスの治療法は進歩してはいるが、臓器障害や免疫抑制剤の影響が寿命を短くする可能性がある。生活に制限があり、短命かも知れない自分を誰かが好きになってくれる事は無いだろう。だから恋はしたくはないし、したとしても気持ちを相手に伝えることは無い。
二十歳の少女の悲しい言葉を、佳音は否定することも肯定することも出来なかった。
だから、芽依に恋が訪れ、瞳を輝かせて報告してくれることが心から嬉しかった。
「どんな人?」
佳音の問いに、芽依は照れくさそうに答える。
「すごく仕事熱心なの。朝は一番早く出勤して、夜はお店が終わってからも残って酵母の研究とかしてて。
早朝出勤の人は、昼過ぎまでの勤務時間なのに、毎日遅くまで残って仕事をしているのよ。
背が高くて、坊主頭で、おしゃれとかも全く気にしてないの。本当に、頭の中はパンのことしか無いみたい。
ぶっきらぼうで、無愛想。クールな感じなんだけど、本当は優しい人だと思うの。
まだ、バイト始めたばかりだし、週一の短い時間だから仕事覚えきれなくて。戸惑ってたら、さっと手伝ってくれたりするんだ。」
背が高くて、坊主頭で、無愛想。頭の中で、曖昧な人物像を描く。
「イケメン?」
もう少しその人物像を明らかにしたくて問うと、芽依は首を横に振った。
「標準かな。ちょっとあっさりしすぎてるかも。もう少し目がくっきりしてたり、鼻筋が通ってたりしたらイケメンなのに、おしいねって感じ。」
佳音は思わず、吹き出してしまう。
「辛口コメント!」
芽依もカラカラと声を上げて笑った。
「でも、好きな人って不思議と格好よく見えるんだよね!」
芽依は、とても幸せそうだ。佳音は、心から嬉しく思った。
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