節子さんと手を繋いで-2

 「よ、正人まさと。」

 健太けんたも、日に焼けた顔に笑顔を浮かべ、歩み寄ってくる。例のテレビ番組では結局彼女を作ることが出来なかった。しばらく意気消沈していたが、今年になってもうすでに何度か街コンに出かけていったらしい。健太の魅力は、このたくましさだと正人は思う。その良さに気付く女性が早く現れたらいいのに。


 「どうだ、正人。久しぶりに一杯やるかい?」


 去年までは、毎日のように仕事終わりに谷口商店でビールとつまみを買って、樹々じゅじゅにやってきていた。しかし健太は正人の現状を理解しており、遊びに来るのを控えているようだ。


 「いや、折角だけど……。」

 申し訳ないと思いながら、正人は首を横に振った。

 「そっかそっか。一段落したらだな。」

 健太は笑って正人の肩をぽんと叩いた。


 その時、波子なみこの悲鳴が聞こえた。その声の方を振り返ると、節子がトラクターに乗り込んでいる。


 「ばあちゃん、危ないよ。降りてきて。」

 波子が節子の足を押さえて言う。節子は怒った顔を波子に向けた。


 「なんだい!邪魔するんじゃ無いよ!」

 「お願いだから、降りて、ばっちゃん。」

 「嫌だね!あたしは運転は上手いんだよ!邪魔するんじゃ無いよ!」

 「ばっちゃんってば!」


 やれやれ、と健太は肩をすくめた。そして、トラクターの方へかけていく。

 「節子さん、待たせたな!」

 健太が波子に目配せをしてトラクターに乗り込む。節子はきょとんと健太を見た。


 「トラクター名人の節子さんに、運転の仕方教えてもらえるなんて光栄だわ。俺、まだ初心者だから、色々ご指導お願いします。」


 健太はトラクターのエンジンをかけた。そのまま、砂利道を進んでいく。そのついでに、道ばたの雑草を刈っていく。


 ほう、と波子は息をついた。


 「皆、ばあちゃんに付き合ってくれて本当にありがたい。」

 呟いた波子の言葉に、疲労の陰を感じた。


 「波子さん、お仕事しながら節子ばあちゃんの面倒を見て、大変なのでは無いですか?」

 波子は、苦笑いを浮かべて正人を見た。そして、ゆっくりと首を横に振る。


 「幸せだよ。」


 そう言って、苦笑いを本心からの笑みに変えた。


 「もう一回子育てしているみたいだよ。子供は皆大きくなってしまったからねぇ。佳音かのんも札幌に帰ってきてくれたけど、仕事が忙しいみたいで家に来てくれないしね。でも、ばあちゃんがいるから寂しくないんだ。大好きなばあちゃんの子育てが出来るなんて、最高に幸せ。」


 「そうですか?」

 首をかしげながらも、波子の気持ちが分かるような気がしていた。


 砂利道を一周して、健太が戻ってきた。その横で、節子が満足そうに笑っている。

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