回る歯車と狂う歯車
回り出した歯車
回り出した歯車-1
のえるがそろそろ新曲を出そうと催促してきた。完成は秋になるだろうから、スローテンポな曲がいいと思っている。
あのテレビ番組の収録をきっかけにして自分の世界は少し変わった。
あの頃は曲をSNSで披露し、数人固定のファンが付いていた。それくらいのものだった。
陽汰の曲に歌詞を付けて歌い、その動画を流して良いかというダイレクトメールが来たのは番組収録の半年前のことだった。陽汰は自分の曲の世界観をくみ取って歌詞を付けてくれることや、ハスキーでハイトーンな歌声と、彼女が編集する動画の世界観を気に入り動画投稿を許可した。
「のえる」と名乗る、ショートカットを緑色に染め、大きな目を濃いマスカラで縁取り、グレーのカラーコンタクトを付けた同じ年頃の女性は、札幌市に住んでいるらしかった。
のえるからは、何度も実際に会いたいとの申し出があった。しかし、陽汰は『コミュ障だから』と会うのを拒んでいた。
番組の収録で陽汰の隣に立ちLINEで会話をしていたのは、髪を黒く染めナチュラルメイクで目立たない姿になったのえるだった。
陽汰は最初、のえるに気付かなかった。
人波から外れ、スマートフォンをいじくる自分の隣に女性が現われたことで緊張し、身を堅くして画面に意識を集中していた。
人の存在は、常に陽汰の心を怯えさせる。
知らない人であれば無視していれば良い。しかし、少しでも交流しなければという制約が生じると、頭の中が真っ白になる。頭に言葉が浮ばなくなり、唇が重りのようになる。
物心が付いたときからそうだった。でも四人の同級生とは皆生まれたときからの付き合いだから緊張しないでしゃべることが出来る。教師と話をしないのは極端な人見知りだからだと思われていた。
中学生になり、幼なじみ以外と話が出来ないことがバレた。そして、自分が『緘黙症』なる病気であることも判明した。原因不明の、人と話が出来ない病気。
その時、ダイレクトメールが届いた。
『初めまして、神田百合です。』
売春目的の類いのいかがわしいものかと思ったが、そのアイコンには見覚えがあった。
のえるのものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます