第1話 心に決めた人-4

 CMが流れ、場面は告白タイムとなった。男性と女性が向かい合って並んでいる。告白はその回によって男女どちらかが行い、意中の異性が他の人に選ばれたときは「ちょっと待った」と手を挙げて自分も告白する事ができる。今回は女性が男性を選ぶ事になっているようだ。


 一人の女性が、悠人ゆうとの名を呼んで一歩前に出た。すると、他に二人の女性が手を挙げて前に出た。


「悠人さんの誠実さに憧れます。付き合ってください!」

「悠人さんの笑顔が好きです。お付き合いしてください」

「悠人さんと一緒に有機野菜を作りたいです。お願いします!」

 三人の女性はそれぞれ心を込めた告白をし、赤いリボンを巻いた小麦の束を差し出した。


 悠人は、左端の女性の麦束を受け取った。


 千紗ちさが、怒りにつり上がった目で悠人を振り返る。その隣で、桃香ももかも白い目を向けた。


「違う、違うんだって! この後正人まさとがあんまりなことしたからさ、ディレクターに懇願されて一人選ばなきゃいけないことになったんだよ! 演出なんだ! 演出!」


 悠人が両手を横に振りながら必死で叫ぶ。睨み付ける千紗の後ろで、画面の中の悠人が照れくさそうに女性を選んだ理由を話している。


「番組の収録が終わった後で、ちゃんとお断りしたから……」

 悠人は、涙目になって言うが、千紗も桃香も表情を緩めることはない。


「本当は、正人の方が先だったんだけどな。告白タイムの順番を編集したんだな」

 健太が呟く。その口調は明らかに不満げでだった。多くの労力をかけて呼んだ企画は、健太には満足な成果をもたらさなかったのだと察することが出来た。


 数組のカップルが成立した後、一人の女性が正人の前に進み出た。途端に、沢山の女性が正人の前に進む。総勢八名。ぎょっとした正人の顔が映し出される。美葉みよの胸の辺りにモヤモヤとした暗雲が立ちこめ自然と眉間に皺が寄る。


「正人さんのおっちょこちょいなところが可愛いです。もっと一緒にいたいです」

 その中の一人が言う。


「正人さんのおっちょこちょいぶりは可愛いなんてもんじゃないよ」

 思わず呟いた。


 次々に差し出される麦の束を前に、正人はおどおどしていた。


「ごめんなさい!」


 正人は、そう言って身体を二つに折り曲げるようにして頭を下げた。悲しげな女性達の顔が映し出される。


「あれ、あの台詞カットされてるじゃん」

「あの台詞?」

 健太の言葉に、保志やすしが首をかしげる。

「本当は正人、『ごめんなさい、僕には心に決めた人がいるので。』って言ったはず」

「それは、流したら番組が成立せぇへんやろ」

「そうか」


 ――心に決めた人。


 美葉の胸が急に高らかに跳ね上がり、頬が熱くなる。


「心に決めた人が美葉だなんて、正人さんは一言も言ってないよ」

 佳音がニヤニヤ笑いながら肘でつついてきた。


 うつむきながらチラリと正人を見ると、正人も顔を真っ赤にしてうつむいていた。

 

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