Episode17

 どうやら、帝国とやらがこのフィクシアに攻め込んでくるらしく、エレナさんはギルド所属の冒険者達を集めるようミリアさんに指示を出す。また、この都市を守る衛兵達にも協力を要請した。


『マスター、帝国側は軍隊とは別に大量の魔物を集めこの都市にぶつけるつもりです。その数およそ50万。マスター、ここは逃避を推奨します』


「AIさん、逃げてどうなる?僕は助かるかもしれない。けど、エレナさんやミリアさんは?レイナさんとミラさん、それにバットは?この都市に住む住民は?

 自分だけが助かればいい。なんてことはできない。偽善者と言われようとも、僕の知人が居るこの都市を見捨てることは出来ない!!」


『マスター…』


「AIさん、敵は何時いつくらいにここに到着する?」


『早くても一週間後といったところです』


「なら、それまでに出来ることをするまでだ!!」


『マスターが全力を出せば、全てに勝利いたします』


「OK、後はAIさんの身体を用意するかな?」


『マスター?それはどういう意味でしょうか?』


「AIさんにはギルド会館ここで全ての指揮を任せる。被害を最小限に抑える事が出来るのは、AIさんだけだと思う。頼まれてくれるかな?」


『…マスター。了解ラジャー、マスターの要請を受諾』


「良し。アイテム創造クリエイト【ホムンクルス】続けて、AIさんをコピー&ペースト!!」


 僕の目の前にタイトスカートを履いた軍服姿の美女が立つ。エレナさんと同じか少し大きい胸部装甲なのが気になるが……

 間違っても僕が望んだわけではない。


『マスター、私の胸部はJカップです。因みにこれは推定ではなく、確定です』


 うん、ありがとう。…別に知りたくは無いんだけど。


『どういたしまして。それとマスターと六名を念話で繋がるようにいたしました』


 そっちの方が助かる。


「タケル君、その女性は誰だい?」


『エレナ様、マスターからこの都市防衛の指揮を任されました。故に専用ボディーを創っていただきました』


「AIさんなの?なら私は、戦力として利用してもらえるってわけね。」


『肯定です』


「それじゃ、帝国が攻めてくるまでに出来る限りの事はしておきましょう。」


 僕は念話を使ってみんなを呼び出し、異空間収納ストレージの下位互換に当たる異空間倉庫ガレージの指輪を創って渡しておく。大型倉庫一棟分の大きさに目一杯最上級ポーションを積め込んでいる。

 これなら、深手を負ってもそう簡単に死にはしないだろう。




 そして、一週間後……


「うはっ、50万の軍勢なんて初めてだな。」


 僕が担当する北門が40万の軍勢、残り10万をそれぞれ東、西、南門に振り分けて攻めてきた。こちらの戦力は近隣から集まってくれた冒険者を合わせて、1,000名程。

 帝国側は自分達の勝利を微塵も疑っていないようだった。


「それじゃ、始めますか。まずは挨拶代わりの一発だ。受けとれ、『究極の怒りアルティメット・フューリー』!!」


 右手の【歓喜ザ・ジョイ】と左手の【悲哀ザ・ソロー】の引き金トリガーを引く。

 二つの銃口に目一杯貯めた魔力が、合わさり螺旋状に放たれた。

 40万の軍勢のど真ん中に当たり、爆発炎上。立ち上った煙が晴れた頃には大きなクレーターができ敵軍勢の三分の二程は消滅していた。


「ちょっとやり過ぎたかな?」


『マスター、初撃の戦果としては最高です。残りの掃討をお願いします』


了解ラジャー


 都市を守る外壁の上から飛び降りる。かなりの高さがあったが、今の僕はアドレナリンが過剰分泌されているのか、恐怖を感じない。

 まぁ、このズルい身体チートボディーならどんな高さから飛び降りたとしても、怪我の一つもしないだろう。

 着地と同時に前傾姿勢で走り出す。前方の魔物二体の頭を撃ち抜く。

 右から錆び付いた剣で斬りかかってきたコボルトを左に回転しながら、コボルトの左側に立ちこめかみに【歓喜ザ・ジョイ】の銃口を突き付け引き金トリガーを引き、コボルトの頭を吹き飛ばす。

 左からオークがこん棒を振り上げ襲ってくるが、【悲哀ザ・ソロー】の引き金トリガーを引き眉間を撃ち抜く。


「面倒くさい。」


 飛翔し上空から、一気に殲滅する事にした。


「ターゲット、マルチロックオン、銃形態ガンモード破壊デストロイ】、弾丸ブレッド追尾ホーミング】」


了解ラジャー、ターゲット、マルチロックオン、銃形態ガンモード破壊デストロイ】、弾丸ブレッド追尾ホーミング】、準備レディー


発射シュート!!」


 二つの銃口に目一杯魔力を貯め、引き金トリガーを引く。

 残り三分の一程の魔物の頭上から、魔力弾の雨が降る。逃げ惑う魔物達を執拗に追いかける弾丸に、為す術もなく撃ち抜かれ消滅していった。


「こちら北門、敵40万の消滅を確認。AIさん、他のみんなはどうなってる?」


『東門のエレナ様とバット様は少々手こずっておられます。西門のレイナ様とブロンシュ、南門のミラ様とノワールの両部隊は、ほぼ殲滅を確認しました』


「わかった。これより東門に急行する。」


 東門へ向けて空を飛び眼下に広がる敵軍を見る。ざっくり計算で300対30,000では、さすがに無謀と言えるだろう。


「ターゲット、マルチロックオン、銃形態ガンモード強襲アサルト】、弾丸ブレッド追尾ホーミング】」


了解ラジャー、敵軍勢頭部にロックオン、銃形態ガンモード強襲アサルト】、弾丸ブレッド追尾ホーミング】、準備レディー


発射シュート!!」


 約30,000もの敵の頭部を撃ち抜く。外壁の上に降り立ち、エレナさんに呼び掛ける。


「エレナさ~ん、魔物は素材が採れると思ったので頭を撃ち抜きました~。帝国兵の武具も回収出来ると思いま~す。」


「タケル君、ありがとう~。皆、聞こえたと思うが、魔物の素材はギルドが買い取る。帝国兵の武具は自分の物にするも良し、売って金に変えるも良い、自由にしろ!!」


『防衛戦に参加した全ての者に通達する。私は、今回の防衛戦の指揮官を任されたAIと言う。今回、防衛戦に参加した全ての者に魔物の素材及び帝国兵の武具を採取する権利を許可する。これは、冒険者ギルドのギルドマスター、エレナ・マクシミリアも承知している。皆、存分に稼ぐが良い!!』


 AIさんが、僕とエレナさんとのやり取りを聞いていたようだった。それを防衛戦に参加した全ての人達に聞かせた事によって、冒険者達はもちろん衛兵の人達もボーナスのようになったみたいで、参加者はみんなホクホクだろう。

 ただ、僕が担当した北門だけは魔物はおろか帝国兵すら、塵も残さず消滅していたので誰も北門には近寄らなかった。



 こうして、フィクシア防衛戦は大勝利に終わった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


次回は4月4日を予定しています。

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