Episode6

 オッサンジグとの勝負の為、ギルドの地下に造られた修練場にやって参りました。

 僕とオッサンのほかには、美人のギルドマスターにミリアさん、僕に罵声と殺意の籠った視線を浴びせていた男性冒険者モブ達が勝負の行方を見守っている。


「ではこれより、CランクのジグとFランクのタケルとの一騎討ちを始める。立会人は冒険者ギルドフィクシア支部ギルドマスターであるエレナ・マクシミリアが務めよう。」


 僕は改めて、周りの人達を見てみる。

 男性冒険者モブ達がどうやら賭けをしているようだ。


『オッズは、20:0でマスターに賭ける人はいません』


 まぁ、そうなるよね…だったら、


「なぁ、そこでこそこそと賭けをしているみたいだけど、成立しているのか?してないなら僕が自分に賭ける事にするよ。これで成立するだろ?」


『マスター、賭け金はあるのですか?』


 そこは、『創造クリエイト』の出番ですよ!!

 金貨を一枚造り、男性冒険者モブ達の方へ投げる。

 男性冒険者モブ達は、青い顔をして震えている。


「賭けも成立したようなので、そろそろ始めましょうか。」


「クソガキが、テメェが勝つことは有り得ねぇから心配すんな!!」


「んじゃ、僕が勝てば賭け金は総取りですね♪」


「致命傷及び、戦意を失った者への追撃は即負けとみなす。二人とも準備はいいか?では、始め!!」


 エレナさんが合図を出すと、オッサンが両手を広げて僕を挑発する。


「ハンデとして初手は譲ってやる。どこからでも打ち込んでみな。」


 余裕綽々よゆうしゃくしゃくで僕を迎え撃とうするオッサンに、僕はおもむろに近づきオッサンの鼻先数センチのところで中指を親指に引っ掛ける。いわゆるデコピンの構えだ。

 そのまま軽く中指を弾くと、


 ドゴォーーーーン


 ものすごい音とともにかなりの勢いで、オッサンは後ろに吹き飛び壁に激突、そのまま意識を失った。


「エレナさん、この場合勝敗はどうなりますか?」


「えっ、あ、しょ、勝者タケル!!」


「お、オイ、今、ジグのヤツがぶっ飛んでいったぞ!?」


「それも指を弾いただけで、だぞ?普通、指弾いただけで人がぶっ飛んでいくか!?」


「いや、有り得ねぇだろ!?つーかアイツ何モンだよ?」


 なんかオッサンを吹き飛ばした事で盛り上がっているなぁ。


「少年、今のは何をどうやったんだ?」


 エレナさんが不思議そうな顔で僕に聞いてきた。


「えっ、今のですか?デコピンの要領で空気を弾いただけですけど?」


「……それで、人間が吹き飛ぶ事はまずないのだが?」


「鞭を空中に向けて勢いよく振ると音が出ますよね?あれって、鞭の先端が音速の壁を叩いた時に出るらしいですよ?僕はそれと同じ事を指でやってみただけです。」


「………なるほど。少年の言っている事がまったく理解できないな。」


 でしょうね…僕も言ってて理解できませんから(笑)


「そもそも、人が指を弾くときに音速を超える速度が出るわけがないからな。」


 デスヨネ~(汗)


「フム、考えたところで結果は見ての通りなので、この勝負は少年の勝ちというわけだが…」


「あの人が言った通りに『負けた方がギルドを辞める』ってルールでしたよね?」


「追放処分にする事は確定だが、少年はそれだけでいいのか?君は不当な暴力を振るわれた側なのだから、何かしらの要求をしてもいいと思うがどうする?」


「いえ、追放処分だけで十分です。あまり欲をかくと後で何を言われるか分かりませんから。」


「そうか…では、そのように手続きをしておこう。ミリア、ジグのギルドカードの失効手続きを進めてちょうだい。」


「わかりました。」


「野次馬ども、ジグを医務室まで運んでおけ!!」


 これにて『新人』をめぐる騒動は解決したようだからのんびりできるかな。


『さすがマスター、一級フラグ建築士の資格をお持ちなだけはありますね』


 ハハハ、AIさん何を言っているんですか?そんな訳ないじゃないですか。フラグなんて建てませんよ。


「少年、少し時間はあるだろうか?君の実力はFランクとは言えない。何か秘密があるようだが、ギルドマスターとして君の事を知っておきたいのだ。私の執務室までご足労願えないだろうか。」


 はい、フラグ回収成功です。

 丁寧な口調にも関わらず、エレナさんの眼は『どこに行こうとも、必ず見つけて話を聞く』と言っている。

 これは、逃げられないだろうな………


「…わかりました。但し、僕にとって都合の悪いことは黙秘させていただきます。それを了承していただけるなら、協力はします。」


「感謝する。時間が惜しいので、このまま私の執務室まで行こうか。」


 そう言ってエレナさんは僕の左腕に自分の右腕を絡める。

 あまりよく見ていなかったけど、エレナさんの胸もなかなか……ご立派ですね。僕の左腕がエレナさんの胸に埋まってます。


「ちょ、ちょっとギルドマスター!?タケルさんとの距離が近くないですか~。職権乱用ですよ?」


 そう言いつつ、ミリアさんが僕の右腕を自分の胸に沈める。


『マスターの顔が、かなり犯罪臭のする顔になっていると報告します』


 AIさんヒドイ(涙)。僕は至って真面目な好青年を自負しているのに。

 ともあれ、僕は二人に連行されるように執務室まで行くことになりました。

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