Episode5

 受付カウンターから飛び出したミリアさんに膝枕をされる。ふむ、ミリアさんの顔が隠れる程の大きさとは…なかなかの絶景ですな。


『今のマスターの顔をミリア様が見れば、ドン引き間違い無しです。マスターの鼻の下が30㎝程伸びてます』


 いやいや、AIさん。人間の鼻の下がそんなに伸びるわけないじゃないですか。


『やはりマスターも年頃の男の子なのですね』


 はい、スミマセン。

 しかし、どうしようかな?このムサいオッサンジグに馬鹿にされたままってのが気に入らない。さて、何かいい方法はないだろうか?

 すると、2階から誰かが降りて来る気配がした。


「騒々しい、何の騒ぎだ!!」


 女性の声がする。

 何故、こんな言い方なのかと言えば僕の顔は今、ミリアさんの大きなマシュマロのせいで見えないからである。どうやら、ミリアさんは少し前屈みになっているようで僕の口と鼻が塞がれている。徐々に息苦しくなってきたので、ミリアさんの腕をタップする。


「タ、タケルさん!?どうかしましたか!?」


 ミリアさん、更に前屈みになるのはやめてください。幸せな気持ちと息苦しいのとで死んでしまいます。

 この人、天然なんですか!?苦しいから腕をタップしているのにまったく気付いて無い!仕方がない、気が引けるが顔を左右に動かして気付いてもらうしかない。


『という理由で合法的にミリア様の胸の感触を楽しもうって魂胆なのはバレバレですよ、マスター』


 ムッ、AIさん失敬な…そんなハレンチな気持ちなど9割程しかありません。


『スケベ心しかないじゃないですか』


 AIさん、母性の塊が密接しているのにそれを楽しまないなんて、僕には出来ません。思春期の男子が、本能には抗うことは無理ということですよ。


「ミリア、膝枕の子がかなり苦しそうだけど…貴女それ、わざとじゃないわよね?」


「えっ?…あっ、タケルさん、だ、大丈夫ですか!?いったい誰がこんな事を!」


 ミリアさん?誰がって…貴女がした事でしょう?


「ミリア…貴女、自分でしておいて、『誰が』はないでしょう!」


「えっ?私、タケルさんに何かしました?」


 天然だ、この人はガチで天然なんだ!

 とりあえず、視界が開けたことにより現状を確認しようか。

 えーと、ミリアさんが僕を膝枕している。

 見たことない美人さんがいる。

 僕をバカにした先輩冒険者達がいる。

 …どういう状況?


『マスターが見たことない美人が先輩冒険者達を一喝して、場が凍りついた…が適切な状況でしょう』


 なるほど…この状況、どうしよう?


「ところでこのバカ騒ぎの原因は、なんだ?ミリア。」


「ジグさんが、新人のタケルさんに『教育』と称して『暴力』をふるいました。」


「なるほど、ようは『いつも』のことか…」


 見知らぬ美人さんが、ふぅ、とため息をしたと思えば、


「全員、傾注!!今回の事で、私の堪忍袋が切れた。よって、今後、新人に『教育』と称した『暴力』をふるった者は、例外なくギルドカードを剥奪しこのギルドから追放する!!」


「なっ!?ギルマス!!そりゃないぜ!オレだってミリアちゃんに、依頼の報告をしようと思ってたところにあのガキが横入りしたからー」


「それで貴様は、そこの新人に『暴力』をふるった…現状を見る限り、そう言われてもしかたがないと思うのだが?それに、ミリアの他にも受付は開いていると思うのだが?」


「そ、それは…」


「ジグよ、この際だからはっきり言おう。貴様はミリアに気があるようだが、ミリアは貴様の事などなんとも思っていないそうだ。むしろ、貴様に言い寄られて迷惑していると私に報告している。」


 うわ…これって本人に言われるより、かなりキツイ事ない?


『ジグと呼ばれる中年冒険者が、盛大に自爆した。と言うところでしょうね』


 AIさんの言うとおりだろう。ジグと呼ばれるオッサンは顔を真っ赤にして、プルプルと震えている。


「クソが!!あのガキさえいなけりゃ、オレはこんな恥を掻かなくてすんだのに!!オイ、クソガキ。オレと勝負しろ!!ルールは『負けた方がギルドを辞める』ってことでどうだ!!」


「貴様はバカか。この状況で何故、新人と勝負する必要があるのだ?私は今しがた言ったはずだ。“新人に『教育』と称した『暴力』をふるった者は追放する”と。」


 AIさん、この状況どうしよう?多分、ギルマスと呼ばれる女性ひとの言うとおりにしてもあのオッサンは納得しないと思う。


『肯定します。むしろ、更に暴れる可能性があるでしょう』


 はぁ、仕方ない。僕は喧嘩なんてしたことがないけど、降りかかる火の粉は払わないといけないようだね。


「わかりました。その勝負、受けましょう。ただし、ルールは守ってくださいよ?」


「ッ!?タケルさん!!危険です。やめてください!!」


「そうだ、少年。こんな勝負など受ける必要はない!!」


「でも、受けないとあの人は納得しないでしょう?」


「でも……」


「ミリアさん、そんなに心配しないでください。それに、僕こう見えてけっこう強いですから。」


 ニッコリ微笑みミリアさんとギルドマスターの美人さんを安心させる。多分…きっと……もしかしたら………安心してくれてるよね?


『マスター、お二人はどちらかと言えば、疑っていると思われます』


 えっ!?マヂですか?


「オイ、クソガキ!かなり自信があるようだが、このジグ様に勝てるとでも思っているのか?」


「ええ、勝てるから言ってるんですよ。」 


 オッサン(なんかすごいムカつくから、名前で呼びたくない)を見下すように鼻で笑って一言添えてやる。



「しかし、Cランクの冒険者様ともあろう人が、女性の気を引く為だけに新人へ勝負を挑んでアピールしないといけないなんて、よっぽど冒険者ってモテない職業なんですね♪」


 オッサンジグ以外の男性冒険者も癇に障ったのか、僕に向けて罵声と殺意の籠った視線を浴びせてくる。


「少年、これ以上煽れば私でも抑える事は出来ないぞ?」


「少し、煽り過ぎましたかね?まぁ、負けるつもりはないので多分、大丈夫でしょう。」


 そう言って、美人のギルドマスターに微笑みサムズアップする。

 さて、見せてもらおうか、この身体の性能とやらを!!

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