107話 妖狐人族へ進化、そしてさらなる絆
「……良いのか?奴隷から解放されたら自由なんだ、この先色々な出会いや経験だってある筈だぞ」
セシルからの忠誠及び身を尽くす誓い、受け入れると自分の中では決めていたものの……少し気になってしまう、俺に尽くす以外にも道はあったはずだ。
前々から感じていたが、獣人達の俺に対する気持ちへの変化が早いんだ、メイランみたいな例外も居るにはいるが……やはり動物愛好家称号が影響しているのだろうか?
「やはり、メイランの言った通りだな。それでもだマスター、前に私がサクラビへ一緒に付いてきて欲しいと言ったのを覚えているか?」
「あぁ勿論だ」
「実は、あの時から既に気持ちは動いていたんだ。しかし、私自身の問題も沢山あり少しばかり悩んでいたのだが……先程の風呂で皆に相談していたのだ、マスターとの成り行きを語っている最中にな」
「それで長風呂していたのか……」
ミツキとの話や裏庭での武器確認で1時間は経っていたはずだ、皆の風呂が長かった理由がそれだった。
ーーーセシル回想、お風呂中ーーー
皆のマスターとの成り行きが発表されていく中、私の番が回ってきた。
「私の成り行きは既に皆知っている事だから、語ることも無い気がするが……」
マスターとの成り行きは武闘会の予選で初めて出会い、タンクを2人で倒した事からだ。
そして戦っている内に予選が終わって、トーナメント1回戦で再び闘う事になった。
結果は負けて、そして刀の事を語る内に……つい私の背負う物をマスターや皆に吐き出してしまい、助けを求めて奴隷となった。
これが私の成り行きだ。
「セシルちゃん、実際の所ご主人様の事はどう思ってるの?」
「む?そうだな……」
私は胸の内に問い掛ける、いや……語りかけなくとも私自身がよく分かっている、マスターの事が気になって、近付くとドキドキして仕方ないんだ。
私は疎い人間じゃない、これの正体が何なのかは分かる。
こんな短期間ではあるが、マスターの魅力に引き寄せられ……恋している。
しかし、そんな胸の内を拒む自分もいる……やはり呪いと裏切られたかつての仲間の件でだ。
「好いている……とは思う」
少し言葉を濁してしまった、断言出来なかった。
お湯に口を沈めてブクブクさせる。
「やっぱり!ご主人様を見る目が私達と似てるもん」
「パパ、モテモテ、女ったらし」
「あはは!女ったらしっすか!違いないっす!」
「もー違うよシェミィにソルトちゃん!女ったらしじゃなくてもふもふったらしだよ!」
「ぶっ!あっははは!確かにそうっす!!」
「パパ、女ったらしにもふもふったらし……無敵!」
ケラケラと笑うソルト、カエデやシェミィもそんな事言いながらも侮辱している感じは一切しない。
奴隷でありつつも、冗談を言って笑ったりマスターを弄ったりする。
そんな事が出来るのは、マスター含め皆の絆が深いからなのだろう。
カエデやメイラン、ソルトとのようにマスターとの絆が深まると、各種族にマスターが変身出来るようになるとの事だ。
特にマスターはカエデとの絆が1番深く、テレパシーのように気持ちや考えている事を伝え合えるようになっているとも聞いた。
私も、そんな風になれたらと考えるのだが……
「でも、一部でそれを否定している自分がいるのだ」
「否定?」
「マスターへ借金をし、呪いも未だ未解決、そして私を裏切ったかつての仲間達……やはりそれらが残っている限り、私は」
「セシルちゃん」
「むぐ」
カエデに口を塞がれてしまった。
身体を洗ったばかりなので石鹸の香りがフワッと広がる。
「何度も聞いたよ、それは」
「しかしだな……」
「まったくっすよ、そんな事でと済まされる内容じゃないのは分かってるっすけど、ご主人は気にする人じゃないっす!」
「そうだよ!だから、自分の気持ちに素直になろうよ!」
カエデとソルトからズイッと迫られる。
確かにマスターは気にしないでくれるだろう、でも私が気にしてしまうんだ。
少し困惑していると、メイランが口を開いた。
「コウガ様は気にしないと思うわ、それよりも……貴方の未来の方が気にするのではないかしら?」
「私の、未来?」
「ええ、私達のように奴隷で買われた訳じゃなく、借金で一時的に奴隷になっているだけ……借金が終われば奴隷から解放され自由が待っている、だから縛り付けたくないと考えてるんじゃない?」
「……」
確かに、私の奴隷契約は借金が終わるまでだ、カエデ達は奴隷状態から買われているので、マスターが解除しない限り奴隷のままだ。
「私達は、コウガ様が望まない限り奴隷のままなの、だから未来はコウガの手で決められている訳じゃない貴方は、自分で未来を決めるべきなのよ。まぁ例外はあるけど」
「その例外は私達だね!ご主人様と生涯共に家族として過ごしていくって決めたから!それにこの奴隷の首輪はご主人様との繋がりを感じる大事な物なの、だから奴隷解放だなんてご主人様から言われたら反発する!ってか、そう決めたのも私達だしね!」
「そうっすね!何だかんだ自分達も、ご主人について行くって自分達で決めて言ったっす!奴隷だから、自分に色々問題あるから、じゃないんすよ!自分の気持ちが大事っす!」
「だからね、貴方には自分の気持ちに素直になってコウガ様と関わり、時間掛けてもいいからいずれは決めて欲しいの。コウガ様は、貴方の呪いや以前のPTだなんて気にする人じゃないから」
「わた、しは……」
良いんだろうか?問題だらけな私が、マスターと共にと……言ってしまっても。
私は、2つの感情で戸惑ってしまう。
「セシルちゃん」
そんな私に気付いてくれたのか、カエデはそっと私をぎゅっと抱き締めてくれた、お互いの首にある奴隷首輪がカチンと音を立てた。
「今決める必要もないから、ゆっくり考えてくれても構わないよ。自由になるにしても私達は応援するし、家族になるのなら歓迎するよ」
「……」
カエデは、温かいな。
お風呂で?体温で?それもあるが言いたい事とは違う。
……心がだ。
マスターが惹かれるのも分かる。
そして、私も……そんなマスターや仲間達に、心が惹かれてしまっている。
奴隷から解放されて自由になれば、ここから居なくなる事も有り得るだろうが……そんな事を言われてしまっては、離れたいだなんて思う訳がない。
素直になろう、私は……マスターに、仲間達に、尽くしたい。
皆を守ると誓っていた、あれは皆と共に居る間だと思っていたが……改めよう。
皆が天命を尽くすまで、守り通すと誓おう。
「私は……皆と共に居たい!必ず、皆を守り抜き、皆幸せを守ると!私はっ!私は誓う!」
私がそう言った瞬間、頭の中で機械音の声が聞こえだす。
『加護、狐の守護神を取得しました』
『加護、奴隷の友情を奴隷全員取得しました』
そして、私の中にある呪われた妖気が……ピシッと音が鳴った、そんな気がした。
「「「「……!!」」」」
「加護が増えたね!」
「そうね、これは私達奴隷組だけが手に入れたのかしら?」
「加護的にはそうだと思う」
「久しぶりっすね、この感覚」
「私はシェミィとご主人様とで、つい最近家族の絆を獲得したからね、久しぶりって訳じゃないかな」
「ママの魔力から加護を感じる、多少私にも効果があるみたい」
「私とシェミィは一心同体だもんねー!」
皆がワイワイと加護を喜んでいる中、私は別の感覚にビックリしていた。
加護の取得で頭に声が響いた事と、呪われた妖気に変化が生じた事も驚いたが、もう1つ変化があった。
私は立ち上がり、後ろを確認すると……尾が2本になっていた。
「えっ、セシルちゃん!?尻尾が2本になってるよ!?」
「ホントっす!どうなってるっすか!?」
皆が驚いている中、この様子を見守っていたティナとレインが口を開く。
「ティナ、これって……」
「……あぁ、間違いない。伝説にある妖狐だ」
「妖狐?それって……」
カエデが気になる言葉を耳にして、聞こうとした瞬間……
バキバキバキッ!
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
お風呂に居た全員が、大きな音に警戒を強めた。
「な、何!?今の音!」
「これは……ご主人様の魔力!」
「みんな!行くっすよ!」
ソルトが飛び出そうとするが……
「ま、待ちなさい!裸はまずいわよ!」
「皆様!服は既に用意してあります!コウガ様がいらっしゃるので大丈夫です!着替えてすぐに参りましょう!」
「流石ヴィーネ、頼りになるわ!」
全員急いで服を着て、音のした裏庭に出た。
その際、尻尾は2つ通せる隙間が無いことを察して慌てたが、妖気を抑える事により1つにする事が出来たので、後でどうするか考えることにした。
ーーーーーーーー
「な、なるほど……そんな事があったのか」
俺は、セシルの回想を暫く聞いていて驚いた。
まさか加護をみんな貰っていて、セシルが俺に尽くすと決めてくれて、そして……尻尾が2つに増えていたなんて!!
「だから、マスター……私の想いを、受け止めてはくれないか?」
セシルの尻尾も気になるが、それは後だな。
真剣に今は向き合わないと。
「分かった、そこまで考えて俺に尽くしてくれるなら、受け入れよう」
カエデやメイラン、ソルトに立てた誓いのように、俺はセシルに誓いを立てる。
「セシル、俺とずっと一緒に居る事を誓ってくれるか?」
「誓うよ、マスター。この生涯は全てマスターと、仲間達と、私の、自分と皆の為に使うと!」
『加護、守護神の誓いを取得しました』(セシル)
『加護、セシルとの絆を取得。条件クリアにより変身スキル強化、個体名セシルの種族へ変身した際、妖狐人族の性質引継ぎ及び個体名セシルの取得スキルの発動が可能になりました。変身スキル発動します』(コウガ)
「「「!」」」
俺の姿が、セシル同様の狐人族……いや、妖狐人族へと変わった、尾も2本だ。
「妖狐人族……?もしかして、さっき言っていたセシルの尾が2本になった事により、種族が変化したのか?」
「そうかもしれないな、妖狐の件は時間作って私が話そう」
ボリューミーなもふもふが2つ付いている、1つの時よりは多少小さくなったものの、もふもふ具合は増えた。
「良かったね、セシルちゃん!」
「ありがとうカエデ」
2人は抱き合う、そしてカエデが何か合図をするとセシルの顔が赤くなるが……何かを覚悟したのか、一度カエデを見て頷き……俺に迫ってきて押し倒された。
「えっ!?」
「ちょーっと動かないでねご主人様、すーぐに終わるから」
「え、なっ何を!?」
慌てていた俺だったが、2人に抑えられて動けない。
そして2人の顔がどんどん俺の顔に近付き……
両頬にチュッとキスをされたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます