103話 時空間の扉③


「カイザス、ソルトを頼める?私はメイランを見る」

「分かったぜ!」


 カイザスって人が自分の特訓に付き合ってくれるらしいっすね。

 カイザスは猫人族でありながらもかなり鍛えられた肉体をしてるっす、正直言うと猫人族の身体に筋肉質な肉体は似合わない気がするっすけど……


「何か失礼な事考えてねぇか?」

「そんな訳ないじゃないっすか!アハハ……」


 いけないいけない、あんま人の事は言っちゃいけないっすね。


「じゃ、やるぞ」

「おねかいしまっす!」


 お願いする時は頭はしっかり下げる、教えてもらうんすからね。


「お前は確か脚技使うって聞いてるが、スキルは何持ってんだ?」

「実はっすね……」


 脚技のスキルは一切持っていない事をカイザスに説明する。

 使えるのは身体強化と瞬歩だけで、脚の技術だけでずっと戦ってきたと。


「なるほど、まぁ脚技スキルってのはかなり少ねぇからな。脚技スキルの動きに沿った練習しねぇと覚えられねぇ……そもそも、脚技だけを使う奴なんて居ねぇし、仕方ねぇのかもしれねぇな」


 カイザスさんの言う通り、脚技はかなり種類が少ないと聞くっす。

 何故なら、脚技というのはあくまで武術や体術使いのサブ技的な扱いで、自分みたいに脚技主体で戦う人が居ないんすよ。

 だから、スキル自体の研究や新しい発見がされてこなかったんす。

 脚技スキルを身に付けると言う事は、数少ないスキルを練習して取得する……もしくは、新しい技を編み出してスキルとして定着させる、要するにオリジナルスキルを確立させるしかないんす。


「カイザスさんはどんな脚技スキル持ってるっすか?」

「猛襲脚に螺旋脚、ムーンサルトにムーンサルトの派生スキルにあたる月落としの4つだ、この4つをお前に伝授してやる!まずはムーンサルトと月落としだ!ちゃんと見てろよ!」

「うっす!」


 カイザスさんが腰を落として構えると、身体のバネを使い空高くへと飛び上がった。


「さすが猫人族、たっかいジャンプっす……!」


 ジャンプの頂点近くまで来ると、背面に反り返りながらも身体を回転させて脚による三連撃、頭が地面に向いた所で脚を振り落とす様に地面へ叩き付けた。


 なるほど、空中での三連撃……そして最後の一撃は、敵を巻き込んで地面に叩き付ける流れっすね。


「これがムーンサルトと月落としの連携技、空中の三連撃がムーンサルト、ラストの一撃が月落としだ。この2つは基本的に一緒に使う事が多いからな、さぁやってみろ!」

「うっす!」


 先程見せてくれた動きをしっかり思い出して真似してみる。


「身体強化」


 普段の力だとあのジャンプ力は出せない、身体強化でバフしてから空へと飛び上がる。

 そして空中で三連撃を放ってからラスト一撃で脚を地面に叩き付けた。


「こんな感じっすか?」

「それだとただの三連撃と叩き落としだ、空中に浮いてる何かを想定して、それを背面で飛び越えるようにジャンプするんだよ」

「なるほどっす」


 もう一度空へと飛び上がり、身体を背面へ反らせながら蹴りを入れるのだが、身体を反らす事に意識が行ってしまってバランスを崩してしまう。


「うわっ!」


 地面にそのまま落ちそうだったが、何とか落下中に体勢を立て直し両手両足で着地する。


「危ない危ない……ミスったっす」

「最初だからそんなもんだろ、覚えるまで何度もやるぞ」

「うっす!」


 何度も空へ飛びあがり、スキル習得の為に動きを身体に覚えさせていく。



 ーーーメイランside特訓開始ーーー


「さて、ドラゴンスキルは正直言って私が教えられるものじゃない、だから文献上どんな物があるかを調べて来たから、これを参考にやろう」


 そう言ってクロエが取り出したのは、ドラゴン族について書かれた文献と本だった。

 その2つは村でも見た事がない本だったが、読んでみるとドラゴン族について詳しく書かれていた。


「何これ……村にしか伝わっていないような事まで書いてあるわ!この本や文献は何処から!?」

「それは秘密、でも……汚したら間違いなく首チョンパ」

「ヒッ!」


 こんな文献、村が提供したとは思えない……一体何処から?

 でも、ざっと見た感じドラゴンスキルの詳細も載ってあった、これなら私も!


「大事に扱えば大丈夫、それじゃ1つずつ試すよ」

「分かったわ!」


 本をパラッパラッと捲りながら目を通していき、一応スキル以外の内容も確認してみる……すると。


「覚醒……」


 目に入ったのは、ドラゴン族の覚醒に関わるページだった。


「ん、それは?」

「ドラゴン族にある覚醒って特性よ。18歳を境にドラゴンとして急成長するのよ」

「へぇ、メイランは何歳?」

「17だけど、後7日で18歳よ」

「じゃあ覚醒ももうすぐ?」

「18歳になる前後で予兆が来るらしいのだけど、まだ無いのよね……」


 ドラゴン族覚醒についてのページを読んでいると、大体は私の頭にある知識ばかりだったけれど、一部知らない内容もあった。

 それは覚醒予兆からの本覚醒までの期間や予兆の種類ね。


 覚醒予兆が来てから本覚醒までに至る期間は個人差が大きいらしく、予兆があってから2日で来る人もあれば数週間掛かる人も居るらしいわ。

 覚醒の早い人の特徴が戦闘中に覚醒する人が多く、戦闘を全くしない人は遅くなる傾向があるみたいね。


 そして予兆の種類、私が知る限りだと魔力が疼いたり、身体が重くなったりだったのだけれど……


「あら、これって……」


 予兆の種類の中には、魔力増大と上級魔法の取得とあった。

 厳密には、覚醒予兆による魔力の増大により上級魔法を習得する事が可能になる、ね。


「上級魔法?それなら、エクスプロージョンノヴァを武闘会で習得したわね……まさか」


 そう言えば、上級魔法であるエクスプロージョンノヴァを2発同時に放つ事が出来たのって……もしかして覚醒予兆による魔力増大によるもの……?


「メイラン?」

「ん?あぁごめんなさい、ちょっと覚醒の予兆があったかもしれないと思ってね」

「ほんと?」

「多分だけどね、まだ分かんないから取り敢えずスキル習得が先ね」

「ん、そだね」


 私はスキルに関するページまで捲っていき、覚えられそうなスキルを探していく。


「ドラゴンバスター……何だかあの時を思い出すわね」


 チーム名を決める時にふと思い出していた名前、それがスキルとしてあっただなんて……少し恥ずかしいネーミングだったわよね。

 ドラゴンバスターというスキルの詳細を確認してみると、魔力を収束させたレーザーを放つスキルだそうな。

 1つに収束させて放つも良し、細かく何本も形成して放つも良しみたいね。


「遠距離攻撃、いいわねこれ」

「メイランとも相性いいと思う、練習してみる?」

「スキルは数覚えて損はないわね、取り敢えずやってみましょうか」


 私は魔力操作を開始した、本には魔力を1つに集めて解き放つのがコツだと書いていたからね。

 手を前に突き出し、手の前に魔力を集めていく。


「魔力を束ねて……纏めて、放つ!ドラゴンバスタァァー!」


 そう叫んで魔力を解き放ったのは良いものの……手の先から出てきたのは、魔力の弾が1つだけボン!!と正面へ真っすぐと解き放たれただけだった。


「わっ!?」


 反動で身体のバランスを崩してしまい、尻餅をついてしまった。


「いったた……」

「ん、弾が飛んで行ったね?」

「失敗だったわ、何がいけないのかしら?」

「うーん、どんな風に放ったの?」

「ただ単に魔力を集めて前に放出しただけよ、一応レーザーのイメージはしたのだけどね……」

「なら、レーザーのイメージをしつつ魔力を放出し続けるようにやってみたら?」

「放出し続ける?」

「ん、レーザーって出続けてるイメージがあるから」

「なるほど、やってみましょうか」


 私は再度手を突き出し、手の平の前に魔力を集中させる。

 溜めた魔力を出し続けるのなら一気に放出は出来ないわよね……なら、一定量ずつ流してみましょう。


「ドラゴンバスタァァー!」


 手の平に集めた魔力を少しずつ解き放っていくと、細いレーザー的なのが出てくる。


「お」

「出来た!でもスキルとしては入手出来なかったみたいね」

「使えたからきっと覚えられる、何度もやろう」

「そうね!」


 何度も繰り返して発動させていると、30分くらいで習得に成功した。

 ただ、ラストに放ったレーザーが、空を飛び上がってたソルトの背中に当たったのはまた別のお話……


「ちょ!ひどいっすよメイラン!!!」

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