第16話 旅の目的

 シェミィをカエデがテイムし、トライデント王国へ帰っている最中、俺はジルさんとミラさん2人と話をしていた。


「スカルさん、どんな処分が下されるんでしょうね?」

「そうねー、ギルマスがどう考えてるか分からないけど、スカル個人としてはランク降格と暫くの謹慎は間違いないでしょうね。ギルマスの指示に従わず、全員を危険に晒したとしてギルド規約違反扱いになるわね」


 ランク降格は間違いないと思っていたが、謹慎もあるのか!どれくらいの期間謹慎になるか分からないが、冒険者だけで生活してる人からしたら大変だろうな……


「そうだな、ただ……PTとして連帯責任と問われるのならば、俺達も何かしら処分が下される事も覚悟せねばならない」


 やはり奴は害しかないな、ジルさんやミラさんはアイツの勝手な行動を何度も止めようとしてるのを俺は見ている、これでPTとして責任を問われるというなら、幼馴染とはいえアイツを庇う必要はない気がする……アイツは独立させた方が良い気がした。


「もうアイツを独り立ちさせて、自分の行動の責任は全て本人に背負わせたらどうです?」


 もう立派な大人なのだから、それが当たり前だと俺は思う。


「スカルの行動の責任は本人に背負わせる、それはそうなんだけど……PTメンバーとして止められなかったという責任はあるのよ」

「そんな理不尽な……」

「PTってそういう物なのよ、ありがとうね。もう何年も一緒に居るけど、こうして責任を負わされるのは慣れっこ、アイツにどれだけ言おうとも、ずっと改善しようとしなかったのよ……もう独り立ちさせる事を考えようかしら?……ハァ」


 ミラが今まで溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すかのように深い溜息をついた。

 こうして話してる間にも定期的にカエデに回復魔法を掛けてくれるミラさん、お陰で身体の外傷は全て綺麗に治っていた


「ミラさんありがとうございます!助かります」

「いいのいいの、カエデちゃんに助けられたからね!お易い御用よ」


 ミラさんがOKマークしてくれる、この世界にもOKマークなんてあるんだな……少々古い気もするが。

 ジルさんが話の続きを話し始めた。


「スカル1人が処分されるか、PTとして処分されるか、どちらにしてもスカルが謹慎喰らうのは間違いない、暫くは俺とミラの2人でPTをやらねばなるまいな。少しの間休暇してから簡単なクエストを回すか、臨時にメンバー募集する事のどちらかになるだろう。」


 少しの間休暇にするのか、なら明日俺達の特訓に付き合って貰えたりしないかな?

 そう考えている内に、森の入口付近まで歩いて来た、後20分もあれば王国に着くだろう。


「それなら、明日1日だけ時間貰えませんか?」


 急な誘いにきょとんとするジルさんとミラさん。


「む?何かするのか?」

「明日1日、修行に付き合って欲しいんです!」

「ほう、修行か」

「良いじゃない、付き合ってあげましょうよ!」


 ミラさんが乗り気みたいだ、ミラさんは魔法使いだから、俺としても協力してくれると嬉しい、魔法使いとして色々教わりたい。


「あぁ、俺も構わないぞ。どんな修行するのだ?」

「俺は魔法の修行ですね、ミラさんに指導してもらえたら……」

「ん〜っ……」


 俺が話してる途中でカエデが起きてきた。


「おはようカエデ、気分はどうだ?」


 カエデは身体を動かし、痛い所や動かない所がないか確かめた。


「うん、身体は大丈夫、ただ……」

「ただ?」


 カエデの顔が暗い、よく見ると苦虫噛み潰したかのような険しい顔をしていた。


「ご主人様、見れたよ。シェミィの身に何があったのか」

「!?」


 まさか、また夢で過去を?


「カエデちゃん、見たって何を??」

「条件は分からないんですけど、私に近い人達や動物に関する事の夢を見る時があるんです、今回はシェミィがテラー大森林に来る事になった経緯が夢に出てきました」


 俺は前にも経験があるので驚かないし疑わない、ミラさんとジルさんは驚きを隠せない。


「そんな事が有り得るのか……?」

「はい、今までにもご主人様に関する夢を見て、聞かされていない過去を言い当てました。恐らく今回のシェミィの夢も間違いないと思います」


 ジルとミラが顔を見合わせて信じられないと言いたそうな顔をしていた。

 俺はカエデに続きを聞いた。


「カエデ、シェミィは何故この森に?」

「色々経緯はあるんだけど……結論を言うと、シェミィは……操られてたみたいなの」

「「「なんだって!?」」」


 俺とジルさんとミラさんの口から同じ言葉が同時に出た、全員口が開いたままになった。


「しかもシェミィだけじゃない……私の村を壊滅させた、あの憎いドラゴンまで操られている可能性が高いわ……」


 ドラゴンまで……!?そんな事可能なのか!?


「村の壊滅……?まさか、カエデちゃんってトーラン村の?」

「はい、トーラン村の村長の娘です」

「カエデちゃん……」


 ミラさんがカエデの境遇を聞き、何とも言えない表情をした。


「ミラさん、私なら大丈夫ですよ。家族は失いましたが……今はご主人様が居ますから」


 カエデが悲しそうな顔を一瞬したような気がしたが、すぐに顔が戻った。


「その操っている本人も夢に出てきたわ……ただフード姿で顔までは見れなかったわ……ごめんなさい」

「いや、気にしなくていい。操っている奴が居た、それが分かれば充分だよカエデ」


 俺はカエデの頭を撫でる、カエデは少しだけ顔が緩み気持ちよさそうな顔をした。


「なら、俺達の旅の目標が少し変わったな」

「そうね、ご主人様の言うもふもふの旅には変わりないけど、ドラゴンを討伐するが操った奴を倒す、に変わるね」


 ドラゴンの破壊行動も本意ではなかった可能性ある、実際に操られているのか、確かめる必要があるな。


「ドラゴンを操るとなれば大きい組織、もしくは大きな力を持った奴って事も有り得るな……これは俺達の手に負えない可能性もある」

「ねぇコウガくんカエデちゃん、ギルマスにこれ報告した方が良いんじゃない……?」


 ミラさんが不安気な顔で提案する、確かにギルマスには言う必要があるだろうな。


「今ギルマスに話すと隊列を止めてまで聞こうとするかもしれない、ギルドに戻ってからにしよう」

「そうね、そうしましょう」


 こうして話してる内にトライデント王国に到着した。

 門番はストームキャットが現れたと大慌てするが、ギルマスが説明してくれたので通報騒ぎにはならなかった。

 全員ギルドに向かって歩き出す。


「従魔登録しねぇとな!一旦全員でギルドに戻ってから解散になるが、コウガとカエデは執務室に入って待っててくれ、必要な登録をする」

「分かりました、あと1つお話があるのでミラさんとジルさんの同席も良いですか?」

「あぁ、スカルの件があるから残ってもらう予定だったから大丈夫だ。ってかまた厄介事じゃねぇだろうなぁ?」

「アハハーチガイマスヨー」


 バレバレの嘘を言うとギルマスが渋い顔をした。


「ったく……仕方ねぇから聞いてやる、従魔登録が終わってからだ」


 時間は既に日が沈もうとして夕日が綺麗な時間帯だ、ギルドに戻ってから全員に報酬を渡して解散する。

 ギルド内でもストームキャットが現れたと騒然となるがギルマスの一声で黙らせた、さすがギルマス。

 それを見つつ俺達とジルさんとミラさんは執務室に入って待機する、数分するとギルマスが執務室に入ってきた。


「ったく、アイツらぎゃーぎゃー言い過ぎなんだよ……」

「あはは……すみませんギルマスさん」

「にゃう……」


 シェミィが申し訳なさそうに耳をペタンとさせて部屋の隅に座り込む、シェミィには悪いがその仕草可愛い……!帰ったらいっぱい撫でてやろう。


「いや、お前達のせいではない。そもそも2人が上手くやってくれたから討伐すること無く、こちらも帰る事が出来たんだ、感謝する」


 ギルマスが頭を下げて感謝を述べる。


「いやいや、そんなお礼言われるような事では……!」

「お前達はそう思うかもしれないが、俺の立場からしたら違うんだ」


 ギルマスが真剣な顔をしてこちらを見る。


「俺の役目はみんなに指示を飛ばし、全員無事に帰還させることだ。もしあのまま戦闘が続いていたら犠牲者も出た可能性が高い、それを助けてくれたのはお前達2人だ、全員を助けてくれた、だからギルマスとして感謝をする、当たり前の事だ」


 確かにギルマスの言う通りかもしれない、俺達はただ必死になってただけなんだが……


「それも大事な事だが、まずはやらなきゃいけねぇ事から済ませようぜ、これが従魔登録に必要な装備品だ」

「装備品?」

「あぁ、従魔登録されている証明みたいなもんだ、首輪でも腕輪でもいい、これを巻けば付けた場所で丁度いいサイズになって装着される、登録はこちらでやっておくからな」

「ありがとうございます」


 装備品を受け取りカエデに渡す。


「カエデが付けてあげて、テイム主なんだから」

「わ、わかった!」


 カエデがシェミィに近付き首に装備品を付けると、丁度いいサイズに変わって装着された。


「シェミィ、苦しくない?大丈夫?」

「にゃーう」


 シェミィは喜んでいるみたいだ、良かった。


「さて、次にスカルだが……アイツは俺達全員を危険な目にあわせただけではなく、数多くの迷惑行為、ルール無視、集団行動での指示無視、色々余罪はある。よってスカルは冒険者ランクをBからDへ降格、そして暫く謹慎だ、更に謹慎期間はトライデント王国の騎士団に身を置き、腐った精神を徹底的に叩き直させる」


 うへぇ……考えたくもない!かなり厳しい処分だな。


「聞いてるだけでエグそうですね……」

「当たり前だ、そしてクローゼス残り2人のミラリアとジル、お前達に処分を与えようとは思わない、しかし……同じPTで活動していたからそのままにしておくのも色々まずいんだ、それで悪いのだが……奴の謹慎期間は遠出しないでもらいたい、謹慎中は俺達の監視下にあると思わせる為だ」


 なるほど、ギルマス自体は罰を与える気はないが、周りが許してくれないか……


「なるほど……ミラ、どうだ?」

「んー、コウガくんやカエデちゃんの件が無ければ良いよって言いたいのだけどねぇ」

「それはコウガが俺に言いたい事に関係あるのか?」

「はい、聞いて貰えますか?」

「聞いてやるって言ったろ?話してみな」


 俺はカエデが見た事、そして俺達の経緯を全て話した、俺が流れ者である事だけは伏せた。


「そんな馬鹿な……魔物を操るだと!?そんな事起きてたのかよ!?」

「はい……」


 ギルマスが両手で頭を抱え込み、あーでもないこーでもないとブツブツ呟き始めた。


「俺達はそのドラゴンを追って旅に出る予定なんです、各地回って強くなる、そしてドラゴンを追って出会うであろうフードの奴をぶっ倒す、そう決めてるんです」

「……なるほどな」


 ギルマスが険しい顔をしてこちらを見た、緊張感とプレッシャーが凄い……


「それ、かなり険しい道になると思うぜ?黒幕が何処にいるかも分からない以上、遠い場所だと俺達が動ける保証はない。各地を回って黒幕を見付けた場合、その地域の協力も必要になるだろう、もちろんお前達も強くならなくてはならん、分かっているな?」

「もちろんです、俺もカエデも覚悟は決めてます」

「……そうか」


 ギルマスは暫く考え、何か思い付いたのかレイアさんを呼んだ、耳打ちをするとレイアさんが驚いた顔をしてこちらを見るが、すぐに視線は戻された、ギルマスにギルドカードをレイアに渡せと言われたので渡すと受付に走っていった。


「コウガ、カエデ、お前達に追加報酬をやろう」

「追加報酬?」

「あぁ、お前達はBランクの魔物と対峙し、戦い、そしてテイムした。俺達だけでは倒しきるのは難しかったかもしれない、だから勝利報酬だ」


 話しているとレイアさんが戻ってくる、何やら袋とギルドカードを持ってきた、ギルドカードにはランクDと書かれているのが見えた。


「ラ、ランクD!?飛び級ですか!?」


 飛び級なんてあるんだな!びっくりした……


「あぁ、俺はお前達の戦闘をみてDで良いと判断した、Dにもなれば様々な魔物と戦えるクエストに出れる、色々クエストを受けて強くなるといい。そしてこの2つ目の報酬だ、ランクBクラスの魔物と対峙し勝利した分だ、他の奴らにも分けたから取り分は少ねぇが、金貨5枚の50万ノルンを受け取れ」

「き、金貨5枚!?」


 少なくなって50万ノルンて……Bランク魔物と戦えばそんなに金額になるのか……


「Bランクなんてあんまり見ねぇからな、こんな魔物を単騎で倒したとなれば、素材で数十万~数百万ノルンにもなるぜ、今回はテイムだからな、素材にはならないから低めって感じだ」

「な、なるほど……」


 冒険者も命懸けな分報酬も高くなるんだな、冒険者が一攫千金とか言う小説がいっぱいあったが、なるほどこういう事か。


「クローゼスの2人、すまんがお前たちを旅に送り出すことは俺には出来ん、そしてコウガとカエデに対して俺が出来るのはここまでだ、もし何かあれば帰ってこい、いつでも歓迎してやる」

「ありがとうございます、明後日旅立ちますので、お元気で」

「あぁ、またな」


 俺達はギルドから出た。


「ねぇコウガくん、明日特訓したいって言ってたよね?朝10時に門を出た所で集まろうよ、私達が行けない分しっかり鍛えてあげるよ」

「ご主人様こんな話してたの?」

「あぁ、ドラゴンと対峙すると思ってたからな、ただ魔物と戦うよりは強い人から手解きして貰う方が良いって思ってな」

「なるほど、いいね!やろうご主人様!」

「にゃう!!」

 カエデもやる気だ、明日はみんなで特訓、早く帰って寝よう。


 俺達は宿に帰って、晩御飯を食べた。

 寝る前に湯浴みしてお互いの尻尾をお互いが整える、これが最近のルーティンになっている、カエデがふにゃふにゃになるがそれがまた可愛い。


「ご主人様ぁ……気持ち良すぎるよ……」

「はははっ、カエデはもっとDEXを鍛えなきゃな!」

「うぅぅ、頑張る!」

「にゃおーん」


 シェミィが俺とカエデにスリスリしてくれる、シェミィも可愛い……!


「シェミィも今日から俺達の仲間だからな、いっぱい撫でてやるぞ」


 シェミィの美しい毛並みを堪能しつつ撫でる、シェミィも気持ち良さそうだ。


「シェミィが擬人化出来たら良いのにね」

「そうだな、きっと可愛いぞ!」

「にい?」

「「あははは!」」


 シェミィが首を傾げる姿に笑いが溢れる、ドラゴンの件が片付いたらこうしてのんびりしつつ、更なるもふもふを求めよう!


 俺はカエデと共に眠りについた、シェミィもベッドの傍で丸くなって眠ったようだ。

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