第14話 新たな力

 俺はカエデに駆け寄り、すぐさま回復ポーションを飲ませた、グラマスとミラさんもこちらへ駆け寄ってきた。


「カエデちゃん!すぐ回復するからね!!癒しよ……傷を塞げ!ヒール!」


 ミラさんのおかげでどうにか傷は塞がり、命に別状はなさそうだがカエデは満身創痍だ。


「ご主人様、ごめん……ごめんなさい……」

「いや、大丈夫……こちらこそごめん、守れなくて」

「ううん、ご主人様が叫んでくれなかったら、動くのが遅れて深く切り刻まれて危なかったよ……ありがとうご主人様……」

「……!」


 カエデが涙を流し、感謝を述べてくれる、俺は思わずカエデを抱き締めた。


「ご主人様……まだみんなが戦ってる、戻って援護してあげて」

「……わかった、カエデはここで休んでてくれ」

「うん、でもその前に……」

「ん?」


 カエデが俺の手を取った、するとカエデの手から温かい何かが俺の中に流れ込んできた、これは魔力……?それと身体強化のスキル効果か!?


「私の今出せる力をご主人様に流した……これでみんなを護ってあげて」

「わかった!カエデ、行ってくるよ」

「うん……!」


 再びカエデを抱き締める、カエデの力が俺の中にある。


 みんなを護ってみせる!


『加護、カエデとの絆を取得。条件クリアにより変身スキル強化、個体名カエデの種族へ変身した際、狼人族の性質引継ぎ及び個体名カエデの取得スキルの発動が可能になりました。変身スキル発動します』


「!?」

「ご、ご主人様!?どうして変身を!?」

「加護が手に入って変身スキルが強化された……カエデの種族の性質とスキルを全て引継いで使う事が可能になったらしい……」

「!?!?」


 コウガ(狼人族の姿)


 STR F→D

 VIT G→F

 INT E→F

 DEX A+→A

 AGI F→D


 これで自分の今使えるスキルとカエデの使えるスキルが全て使える状態になった、多少ステータスが落ちているのもあるがカエデの本領は接近戦だ、DEXとINTが落ちても問題はない。


「カエデの力がここにある、負けない……絶対に」

「ご主人様……ご幸運を」

「あぁ、すぐ片付けてくる」

「カエデは俺が見ておく、行ってこい」


 グラマスは今の俺の変化をみてビックリこそしていたが、内心思ったそうだ。コイツは低ランクで燻るやつじゃない、現地点でFランク所かD、C以上の実力があるのではないかと。

 グラマスにカエデを頼み、俺はストームキャットに向かって駆け出した。


「アクセルブースト!」

「……力を、かの者に!シャープネス!」


 カエデのスキルを使いストームキャットに近付き殴りつける、初めて魔物を殴りつけたが恐怖が無いわけではない。

 しかし、カエデがここまで傷付けられたのだ……怖いだなんて言ってられない!


「ぐにぃ!」


 ストームキャットがよろめいたのを見逃さず、すかさず連撃を加えた。


「アイスショット!」


 連撃の最後にアイスショットを打ち込み一旦離れる、離れた所にミラさんの魔法が飛んでくる。


「グラビティプレス!」


 ストームキャットが重力に押し潰されるように地面に叩きつけられる。


「チャンスだ!かかれ!!」

「「「うおぉぉぉぉ」」」


 ジルさんの掛け声で全員で畳み掛ける、もちろん俺も加わっている、動ける冒険者総出でストームキャットに切り掛かり、俺もナイフを取り出し切り付ける

 ナイフも魔物相手に初めて使った、敵を切る感覚、敵が強いからなのか分からないが深くは切れないものの飛んでくる血、不快に思わない訳がない……魔法を使って倒すのとは大違いだ。

 グラビティプレスは魔力の消費が激しい、どれだけ優秀な魔法使いでも10秒持てば良い魔法らしく、ミラさんは9秒持った。

 ただ攻撃側の9秒はかなり長い、ストームキャットをどんどん弱らせていく。


 ------------


「ねぇギルマスさん、私の攻撃……どうでした?」


 不意に声を掛けられたギルマスは数秒程考え込んだがすぐに答えてくれた


「……そうだな、悪くは無いが経験不足だ。攻撃も単調で対人だと読まれやすいだろうよ、ただ爪回避後のアッパーはなかなか良かったぞ、お前達はまだFランクだが……多分Dランクくらいはあると思うぞ」

「そうですか……ん……?」


 カエデは何かの気配に気付く、何かに助けを求められてるような……?


「誰……?」

「ん?どうした?」

「誰かが助けを求めているような……」


 周りを見渡すが冒険者達と対峙してるストームキャットと自分達しかいない、ストームキャットがこちらを見ているような……?


「まさか……君なの?」


 カエデはストームキャットの所へ歩み出した。


「まっ、待て!危険だ!」

「大丈夫です!あの子が呼んでるんです……!」

「呼んでるって……そんな馬鹿な」


 --------


 俺達はグラビティプレスから解放されたストームキャットと対峙している、何故かストームキャットから攻撃を仕掛けてこない。


「何をしているんだ……?」


 ストームキャットが何か怯えているような気がする、何か……訴えているような……?


「ご主人様!」

「!?」


 脚を止めて振り返るとフラフラになった状態のカエデがこちらに近付こうとしていた。


「カエデ!動いて大丈夫なのか!?」

「うん……大丈夫ではないんだけど、その子が呼んでるような気がして……」

「確かに、何か訴えているような気はした……もしかしたら自分の意思で襲いかかって来た訳ではなかったのかもしれない」


 俺はナイフを仕舞い、変身を解いてからカエデに肩を貸す。


「ご主人様、ありがとう……」


 カエデがストームキャットの近くに辿り着く、そして語り掛けた。


「ねぇ、私を呼んだのは君かな?」


 カエデがそういうと、何とストームキャットが頷いて答えてきた、近くに居たジルさんも驚いたようだ。


「な……なんと……!?ストームキャットと対話を!?」

「話してる事は分かりませんが、助けを求めていたのに気付きました、意思と言いますか……そういう物を私に伝えてきたので……」


 カエデがストームキャットに手を伸ばすとカエデの方に寄ってきて匂いを嗅ぐ仕草をした。

 ギルマスもビックリしながらも状況からして戦いは終わったように感じたようで、冒険者全員に声を掛けた。


「全員武器を仕舞え、もう戦わなくて良さそうだ。怪我してる奴の救護を優先しろ」


 冒険者達が怪我した人の治療に入る、一応スカルも助けられたようだが、意識は無く酷い怪我だそうだ。


「ご主人様、どうしよう?」

「うーん……多分コイツも何かあって理性なく暴れてたんだろうな……それが俺達の攻撃で我に返って攻撃を止めた、そうとしか思えない。何か原因が分かればいいが……」


 2人でストームキャットをどうするか考えている内にカエデが何かを思い付いた。


「お父さん……テイマーだったんだよね、もしかしたらこの子の訴えに真っ先に気付けたのはテイマーの血が流れていたからかも……」

「カエデのお父さんテイマーだったのか」

「うん、やり方は分からないけど……どうにかしてテイム出来たら何があったか分かるかもしれない、テイムした子の感情がより分かるようになったり……テイムした子によっては会話出来たりもするらしいよ?」

「なるほど……ただテイムの方法がなぁ……」


 しかしテイムの方法が分からないとどうにもならない、カエデもテイマーとしての力があったとしてもだ。


「わ……私!治癒術士ですが……テイムもやっていた時期もあるので教えられますよ……?」


 そう言って近付いてきたのはCランク冒険者で集まっていたPTの1人だった、臨時PT募集でたまたま入ってきた人らしい。


「ほ、本当ですか!」


 カエデが興奮して声を掛けてくれた女性の手を握る・


「あわわわ……」

「あっ、ごめんなさい!興奮してつい……」


 カエデがパッと手を離す、結構挙動不審な所がある彼女、あまり人付き合いが得意ではないのかもしれない。


「い、いえお気になさらずに……私はリーシェナです……テイム方法をお伝えしますね、通常テイムと忠順テイムの2つ……ありますがどちらにしますか……?見た所知性が高そうな魔物でこちらの言葉を理解しているので忠順テイムで良さそう……ですが」


 テイムにも種類があるのか、異世界小説読んでてもテイムに種類なんて無かったような気がするが……幾万との小説がある中で俺が読んだのも数十程度なので、たまたま読んた事がないだけかもしれない。


「忠順テイムでお願いします、通常のテイムはまたいずれ自分で調べます」

「分かりました……まず相手からこちらのテイム人の従魔になるという事に同意して貰わないと……出来ません、最低条件として魔物の場合は敵意が無いことと……少しでもこちらの意思が理解出来る事を条件です……なのでまずは通常テイムをして意思を汲み取れるようにしてから……忠順テイムへと移行します、知性ある魔物なら忠順テイムからでも可です……ね」


 テイムの仕組みは何となく理解は出来た。通常テイムがよく見るテイムで、ちょっと力を借りたい時に使う仮でするテイム?的なやつだと思う、で忠順テイムが本格的なテイムってやつだな。


「そして忠順テイムなら……テイムしたい魔物の頭もしくは魔石に近い所に手を置いて……相手にテイムされる意思があるか……確かめてからテイムと唱えてください……手の上と魔物の何処か手に触れている所に……テイム紋が浮かび上がれば成功です……その際に名付けもしてあげるとよろしいかと……」

「分かりました、やってみます。ご主人様、いい……?」


 カエデがこちらを見てテイムしていいか聞いてきた、テイムするからには俺達2人と一緒に旅をする事になる、俺の意思も必要だと思ったのだろう。


「あぁ、いいよ!コイツも何かあったっぽいしな」

「本音は?」

「猫も好きだからOK!」

「よろしい」


 カエデもフラフラな筈なのに俺を気にしてくれたりふざけたりしてくれる、ホントに良い子だ。


「ねぇ、私達と一緒に来ない?君も何か困った事があったんだよね……?私達が助けてあげたいの……従魔になる形にはなるのだけれど……」

「………にゃう」


 少し考えたようだがストームキャットが頷いた、テイムや従魔という言葉は理解出来るようだ。


「……テイム」


 ストームキャットの頭に置いた手の上とストームキャットの頭の上に紋が浮かぶ、成功だ。


「やった!成功した!」


 カエデが大喜びしている、身体は動かしてないが声の調子と目を見ればすぐ分かった。


「名前どうする?カエデが名付けるか?」

「いいのご主人様!?」

「あぁ、カエデがテイム主だしな」

「どうしようかな……」


 考え込むカエデ、初めての従魔だからな、名付けなんて今までした事ないだろうし悩むのは分かる。


「てか、この子に性別とかあるのかな?ねぇ、君は男の子?」


 ストームキャットは反応しない。


「なら女の子?」


 こくりと頷いた。


「女の子ね、可愛い名前付けなくちゃ!」


 よくある考えるポーズ的な格好で1分程考えていたが、名前が決まったようで小さく頷き発表してくれた。


「決めた!君の名前はシェミィ!シェミィよ!」

「……にぁう!」


 名付けた瞬間にシェミィの身体が光に包まれて、ほんの少し姿が変わったようだ、何故か傷も全て回復していた。

 四足の状態で人の身長よりデカかったシェミィだが、一回り小さくなった、前世に居た馬より少し大きいくらいだ。

 2人でシェミィを撫でてみると、毛並みは艶々しており撫で心地がいい。


「「可愛い……!」」

「にゃう!」


 2人してメロメロである、さっきまで戦っていたのが嘘のようだ。


「あー……嬉しいのはよく分かるが、そろそろ帰らねぇか?」


 ギルマスの一声でハッとした2人はシェミィを撫でるのを止める、少しシェミィが残念そうな顔をしている、後で2人でなでなでしてやるからな!


「す、すみません……つい」

「ったく……愛でるなら帰ってからだ、まだこの魔物……じゃなくて従魔か、問題も解決した訳じゃないんだからな。全員!帰るぞ!」


 全員が帰る準備をする、負傷者は出たものの歩けない程の負傷者はスカルとカエデだけらしい、アイツは何をしに来たんだ。

 ちなみにアイツはギルマスの前で統率を乱す行為をし、自分勝手な行動をしたとして何かしらの処分を受けるようだ、ジルに背負われている。

 カエデを背負い歩こうとすると。


「にゃーう!」


 シェミィが鳴きながらカエデを尻尾で引き寄せようとした後に、俺の前で伏せをした、カエデを乗せろって事か?


「カエデ、シェミィが乗れだとよ」

「えっ、良いのシェミィ?」


 声に出さなかったが、小さくシェミィが頷き返事をした、多分主を傷付けてしまった罪悪感があって運んでくれる、って感じか。


「ありがとうシェミィ、お言葉に甘えて乗せてもらうね」


 カエデがシェミィの背に乗った、普通乗りでは身体が辛いのでシェミィに背から抱き着くような形で乗った。艶々した毛が温かくて気持ちがいい。


「ご主人様……少し眠いから寝てもいいかな?」


 カエデがうとうとしながら聞いてきた。


「あぁいいぞ、身体が疲れ切ってるんだろう、着いたら起こすからそれまで寝てていい」




「ありがとうご主人様、シェミィ。おやすみなさい……」


 シェミィの温もりを感じながらカエデは眠りについた。

 帰り道はストームキャットの魔力がダダ漏れ状態だった為、魔物は1体も近寄って来る事はなかった。





 カエデはまた夢を見たようだ。

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