第13話 強敵

「よし、ここから陣形取るぞ!まずコウガ達の護衛と後方監視にクローゼス!後の2PTは前に出て調査陣形!俺も前グループに付いて行く、油断するんじゃねぇぞ!」

「「「おぅ!」」」「「はい!」」


 ギルマスが指示した瞬間、素早く陣形を取っていく冒険者達。


「洗練されてるな……」

「そうね、さすがベテラン達ね」

「お前達2人、調査の見学と言ってもこの森に出る弱い魔物なら討伐してもいいぞ、怪我しねぇようにな!」

「「はい!」」


 ギルマスから激励を貰った、前の調査隊に邪魔が入りそうならその前に仕留めよう。


「私達も援護するから、好きにやっちゃいなさい!」

「タンクなら任せろ、見た所コウガは魔法使いだな?基本的に俺の後ろに付くがいい」

「分かりました!」


 調査隊の後ろから付いて行き、後方を警戒する。やはり奴は離れた場所から付いてきてる……邪魔くさいな。

 すると索敵で右手より5体が近付いている事を検知した。


「ジルさんミラさん、右手より敵が5体、近付いて来てます」

「む?もしや索敵持ちか?」

「はい、何の反応かは分かりませんが……近付いて来るのがゴブリンより早い気がします」

「ならウルフかもね、ジル!カエデちゃん!前衛よろしく!」

「はい!」


 遠目から姿が確認出来た、ミラさんの言う通りウルフだ。

 ウルフはもふもふなんだがなぁ……無害なら幾らでも撫でまわすのに、今見えているウルフは人を襲う有害な魔物なのでやらねばならない、仕方ない。

 そんな事を考えているとカエデが身体強化を掛けてこちらを見た、準備OKみたいだ。

 ジルさんも俺達2人を気にしつつ1番前に立ってくれる。


「俺が氷魔法で先制します、命中したら追撃お願いします!」


 俺は杖を前に突き出し、ウルフ目掛けて魔法を放つ。


「ブリザード!」


 吹雪がウルフを襲う。倒れはしなかったが、ウルフの動きが少し鈍ったように感じた。


「アクセルブースト」


 ブリザードの吹雪が消えた瞬間にカエデが一気にウルフに駆け出す。


「へぇ、魔法の発動が凄く早い……なるほど、カエデちゃんもFランクとは思えないような移動速度じゃない」

「え?何か言いましたか?」

「何でもないわ、ここはコウガくんカエデちゃんに任せちゃお!危なくなったら手を貸すからね、まぁジルが居たら大丈夫だろうけど」


 ミラさんが最初何を言ったのか分からなかったが、カエデがウルフに迫っていた、集中せねば。


「はぁ!」


 カエデがウルフにパンチを入れようとするが躱された。


「躱された……くっ」


 別のウルフが噛み付こうと飛び掛って来るが篭手でしっかり受け止め、振り払って逆手からパンチを繰り出す。


「ギャウン」


 1体が倒れたが、次々襲いかかってくる、躱したり篭手で防いでいる、俺も援護しなければ。


「ウォーターボール!」


 1体のウルフにウォーターボールを放つ、簡単に避けられるが2体のダケは取れたのかこっちに向かってくる。


「コウガ、近付かれた際に有効な魔法はあるのか?」

「えぇ、1つあります。逃したら頼みます」


 俺は近付いて来る2体を充分に引き寄せてから魔法を放つ。


「アイスウォール!」


 ジルさんの目の前に氷の壁が現れ、突進してきたウルフ達が跳ね飛ばされる、それを逃さずに。


「アイスショット!」


 アイスショットで1体を仕留める、もう片方のウルフが近付いて来るが、もう一度アイスウォールを発動して防いた所をアイスショットで仕留めた。


「ほぅ、見事だ。魔法使いの中でも特段に魔法の発動が早い」

「ありがとうございます」

「そうね、こんなに発動が早いなんて知人に1人くらいで、冒険者の中でもこれだけ早い人は少ないわ、居ないわけではないけどね」


 こうして話しているのも、カエデは既に残り2体を仕留めていたからだ。


「コウガ、ウルフの解体方法は分かるか?皮が素材として使えたり売れたりするんだ。魔法袋中のような大き目の袋ならそのまま解体せずにギルドに買い取ってもらう方法もあるが」


 ウルフの皮は売れるんだな、解体方法は知らないので魔物はそのまま売るとしよう。


「解体は出来そうにないですが、魔法袋代わりの魔法があるので問題ないです」

「…ほう、珍しい魔法を持っているのだな。なら持ち帰るがいい」

「ありがとうございます」


 ストレージへウルフを2体入れているとカエデが魔石を持って帰ってきた。


「ふぅ、動いた動いた!ご主人様、魔石取ってきたよ!」

「あぁ、ありがとう。ウルフの皮は素材として使えたり売れたりするらしいから、次からは魔石にせず、そのまま持って帰ろう!」

「剥ぎ取るではなくそのまま?あ、そっか。倒した魔物ならストレージに入るのね、分かった!」


 全てストレージ内へ入れていく。


「ふん、糞ガキがそんな魔法使えるとはな」

「……何ですか?」

「別に、糞は糞なりに役に立つ事があるんだなと思ってな、糞には変わりないけどなぁ!」


 クッソ胸糞悪い言い方をして奴が近付いてきた、殴り飛ばしてやりたい。


「やめろスカル!」

「あんた!なんて事言うのよ!いい加減にしなさいよ!」

「ハッ!うるせぇなぁ!はぁー糞と一緒に居たら臭くなっちまう、先に行くぜ」

「おい!スカル!」


 奴が調査隊の前まで走って行った。


「こんなクエスト、俺1人でやってやらぁ!黙って見とけ!」


 そう言って先の方まで走り去っていった。


「アイツ……勝手な真似を」


 ギルマスが怒りに震えるが追い掛けはしなかった。


「勝手な行動すればいつかは痛い目にあう、お前達はアイツみたいになるんじゃないぞ」


 ギルマスの声に全員が頷く、全員スカルの事は気に入らないようだ。


 順調に調査は進んで行き、簡易的な昼食を済ませた。

 現れたスライムやウルフを倒している内に、いつしか俺のレベルは3へと上がっていった、カエデも6になったそうだ。


「そろそろ奥地だ、気ぃ引き締め直せよ!」


 ギルマスの掛け声と共に全員気を引き締め直して先に進む、すると。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

「!?」


 今の叫び声に聞き覚えがある……奴だ。


「全員!警戒を怠るな!来るぞ!!」


 叫び声が聞こえた先を見ると、何かが木をなぎ倒しながら近付いてくる、索敵にも2体反応があり、1体は奥の方で動かないがもう1体が近付いてくる反応がある。


 なんだあれは!?白色の猫!?


「ス、ストームキャットだ!!」


 1番前にいる冒険者が叫んだ、すぐさまギルマスが全員に指示を出す。


「全員、防御体制!奴は脅威度B級の魔物だ!」


 B級の脅威度と言えば、カエデの村を襲ったドラゴンが最低でもB以上の魔物だ、このテラー大森林にはDランク以上の魔物は居ないはずだ……なぜここに?

 ちなみにB級なら個人の能力差にもよるが、Bランク冒険者のパーティを3PT以上必要とされている、A以上になってくると強さの幅がかなり大きくなるとの事。

 見た目はかなりでかい白い猫なのだが威圧感が凄い、ゴブリンやスライム程度では緊張しなかったが……今回ばかりは緊張している、撫でてみたいとか言っている場合じゃないと身体が言っている。

 ストームキャットを見ると身体に風が纏っていき魔力が練られている感じがした、その瞬間ジルさんが叫んだ。


「コウガ!カエデ!俺の後ろに隠れろ!でかいのが来るぞ!!!」


 すかさずジルさんの後ろへ身を隠す。


「ロックマウンテン!!」


 拳を地面に叩きつけるとでかい山のような壁が出来上がる。


「魔力を吸い取る盾となれ……マジックシールド」


 ミラさんも防御魔法を唱えて身を護っていた、魔法名の前に詠唱?的なの挟むんだな、俺はイメージだけで発動しているから詠唱は知らない。

 その瞬間ストームキャットから風の刃が多数発せられ周りを切り刻んでいく、ロックマウンテンが風の刃により切り刻まれるが持ち堪えた。

 冒険者全員は何かしらで身を護ったが、何人か防御方法を持っておらず負傷者が出た。


「怪我人は下がって回復を!無事な者は前へ!」


 的確な指示で冒険者を動かすギルマス。


「こんなのまともに食らったらただじゃすまないぞ……Fランクの俺達じゃ尚更だ」


 周りの木々はボロボロに引き裂かれている、威力はこれを見ただけて想像出来る、当たったら重症は間違いない。


「奴は一度魔法を使えば少しの間は魔法は使わない、消耗した体力に比例して魔力が貯まっていき再度魔法を放つんだ、しかし……前に戦ったストームキャットより凶暴な気がするのだが……ミラどう思う?」

「うーん、もしかして寝起きを襲われて暴れているんじゃない?真実はどうか分からないけど、仮にそうであればアイツが起こしたんでしょうねぇ……」


 アイツ……とんでもない事をしやがる。


「ストームキャットから逃げ切るのは難しい、俺の後ろを離れるんじゃないぞ!」


 俺達はジルさんの後ろからストームキャットに対峙する、後ろから大きな魔法が放たれる。


「……暴風よ、切り刻め!トルネード!」


 竜巻がストームキャットを襲う、ダメージは入っているようだがまだまだ体力はありそうだ。


「そう簡単にはいかないわねぇ……次!雷よ……来たれ!ライトニング……ストライク!」


 手のひらより雷が発生し投げつけると稲妻のような軌道を描き敵にヒットする。


「にぃぃぃぃ!」


 ダメージを喰らいながらも木々の地形を生かし飛び跳ねながら移動し、長い爪で引き裂こうとするが、ジルの盾によって防がれる。

 周りのPTも魔法を放ち、ダメージを与えていくが有効打になっていなさそうだ、俺も攻撃に参加する。


「ブリザード!」


 吹雪がストームキャットを襲う、吹雪による影響かストームキャットの動きが鈍る。


「相手の動きが鈍ったぞ!一斉に叩け!」


 ギルマスの一声で一斉に近接系冒険者達が切りに掛かる。


「ご主人様、私も行きたい……」

「いや、相手は危険度Bの魔物だ、接近戦は危な過ぎる」

「でも……!みんなが傷付いていくのを黙って見てるだけなんて出来ないよ……」

「……敵の攻撃は見切れそうか?」

「うん、しっかり目で追えるし避けられる」


 カエデは確かにFランクとは思えない動体視力をしている、弱い魔物だとはいえ普段の戦いでダメージを食らう様子は見た事ない……信じてみようか。


「分かった……ただ無理は絶対にしないこと!いい?」

「わかった、ご主人様!」

「カエデちゃん、もし傷付いても私が回復魔法で治してあげる、コウガくんを守るのよ」

「はい!」


 カエデがストームキャットへ駆けて行く。


「お、おい!」


 グラマスが声を掛けるが聞こえなかったようだ。


「仕方ない……今は戦力がほしい、ミラリアとジルが許したのならいいだろう」


 ミラさんとジルはグラマスからの評価が高いみたいだ、奴とは大違いだ。

 カエデは走ってる間に拳に力を込め飛び上がる、その時後方より援護魔法が飛んできた。


「力よ……かの者に!シャープネス!」


 カエデのSTRがUPする、バフを貰ったカエデは更に力を拳に込めて殴りつける。


「ぎゃん!!」


 ストームキャットがよろめくが倒れない、ストームキャットの反撃で爪がカエデに向かって振り落とされるが、ギリギリバックステップで回避した。


「あっぶない……とっとっと」


 ストームキャットの連続爪引っ掻きが繰り出され、たまにスレスレになる時もあるがトントントンと躱していくが、草木が回避の邪魔をする。


「ずっと避け続けるのは厳しいね……なら!」


 カエデが振り落とされた爪を避けた瞬間にストームキャットの顎にアッパーを喰らわせる。


「にぃぃっ!」


 ストームキャットが少し後方に下がる、カエデは周りに比べてレベルが少し低いのでパワーが足りないがシャープネスのおかげでダメージは入る。


「シャープネスが切れるギリギリまで叩き続ける!」


 更なる追撃をしようとした瞬間、負傷を負い体力を消耗したストームキャットがまたしても風の刃が身体を包み込む。


「危ない!カエデ!下がって!!」

「!!」


 俺の声を聞いたカエデは思いっきりバックステップするが俺達の位置までまだ少しある、カエデは間に合わないと思ったのか篭手を前にして腕をクロスにして防御の形を取る。

 ストームキャットが風の刃を解き放ち、刃がカエデを襲った。


「いっ!きゃぁぁぁぁぁぁ!」


 カエデの身体が風の刃により切り刻まれて吹き飛ばされ、木に叩きつけられる


「ガァッ……」

「カエデぇぇぇぇぇぇぇ!!」

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