第9話 ベタベタとハプニング

 奴隷商館から出て一旦お昼ご飯を手作りする為に宿に向かった俺達、俺とカエデの気分は色んな意味で上々だ、パンと食材の数々でサンドイッチを作る予定、昨日カエデが美味しそうに食べていたので気に入るはずだ。

 食堂の調理室の隅を借りてカエデと二人で作る。


「まずは野菜を洗って切っていこうか」

「はーい、レタルとキューとトメトでいいのよね?」


 名前を見たら分かるが、レタルがレタス、キューがキュウリ、トメトがトマトだ。

 味もお店でキューを試食させてもらって、前世の食材と似ていることがわかったので安心だ。


「そう、洗ったら俺にキューとトメトを渡してくれ、レタルを半分に切ってから一口サイズに千切っていってくれ」

「分かった」


 じゃばじゃばと野菜を洗って俺に渡してくる、受け取ったキューとトメトをスライスするように切っていく。

 トントントントン。


「綺麗に切るわね、切った後の薄さが殆ど一緒だわ」

「たまに自分で作ってたからな、ここでもDEXがA+あるから器用なんだと思う」

「羨ましいわね……レタル千切ってくわよー?」

「そっちは頼んだ」


 二人で協力して野菜たちを千切って切ってしていく。


「よし、野菜はこんなもんだな。次は肉だ」

「肉はどう調理するの?」

「肉はタレにつけて焼く、昨日の焼串肉屋と似たようなものだな」


 肉屋でタレも手に入れていたのでこれをつけて焼いていく。

 ジュウーーーー。


「これだけでも食べれるくらい美味しそうね」

「だな、そろそろパンの準備を頼む、並べて野菜を乗せてくれ」

「了解!」


 カエデが食パンによく似たカットされたパンを取り出して並べて、野菜達を並べていく。


「こんな感じでいい?」

「ああいいぞ、肉乗せたら挟んでくれー」

「はーい!」


 俺が焼き上がった肉をパンに乗せ、カエデがパンで挟んでいく。


「肉だけじゃ飽きそうだな、あれも使っちゃおうか」

「なに使うの?」

「クックの卵だ」


 クックとは前世で言う鶏に似た空飛ぶ生き物の卵だ、栄養価があって美味しいらしい。


「この卵をかき混ぜてから焼くんだ」


 厚焼きたまご風に焼けたので、野菜の上に乗せて、買ってあったトメトソースをかけてパンで挟むと出来上がり。


「よし!サンドイッチの出来上がりだ!」

「昨日とは違って野菜もあって美味しそうね!この世界ではパンに野菜や卵を使う料理はあまり見ないの、楽しみ!」


 出来上がりを食べたくなるが我慢し、道具屋でこっそり買っていたバスケットの中にサンドイッチを入れ、ストレージの時間経過無し設定にした空間に入れた。


「さて、ご飯も出来上がったし、今日はどうしようかなー」

「確かあと3件FランククエストこなすとEランク行けるんだよね?」


 カード発行の時に貰ったギルド資料集によると、討伐クエスト1件を含むクエスト5件達成でEランクへ昇格らしい。


「そうだな、宿があと3泊分残ってるから1日1つでも良さげだ、旅に出るならEランクになってからでもいい」

「それならクエスト3件はさっさと済ませて、残りの時間は特訓しましょ!これから強い敵とだって戦うことが増えるんだし」


 これからの目標の1つであるドラゴン討伐、これを達成するためにも強くならなければならない。

 ドラゴンは危険度B級相当の危険な魔物である、上位種になってくるとA級相当になるのだ。


「そうしようか、今日は2件クエストこなして明日は1件と特訓、最終日は朝から特訓して夕方くらいから旅の準備ってことにしよう」

「わかった!」


 そうと決まれば早速ギルドへ。

 掲示板でクエストを探してみると、魔力草10個採集クエストがあった。前日魔力草も一緒に採集しており6つストレージに入っている為すぐに終わりそうだ。

 もう1件はスライム10匹討伐にした、数が増えてきた為に討伐して欲しいって依頼だ。

 クエストを受注してすぐにテラー大森林へ向かう。


「まずは魔力草を先に採集してしまおう、スライムは奥地に行かないとなかなか見つからないから、討伐は後だ」

「了解!」


 テラー大森林へと入って行き、昨日薬草採集した場所付近に向かって歩いていく。


「ん……!?」

「どうしたのご主人様?」

「……索敵で6つ反応があった、正面の若干右側だ」

「え?反応6つ?数が多いって事はスライムの可能性が高いけど……でもまだ森に入ったばかりよ?まだスライムが出る領域じゃないよね?」

「その筈だが……取り敢えず何の群れか確認する為に隠れながらゆっくり近付くぞ、注意してくれ」

「分かったわ」


 スライムの数が増えてきて生息域が広がってきたか、何かが奥地に住まうようになって追い出されたかのどちらかか……

 前者なら何故生息域が広がる程の繁殖したのか?という疑問が残るが、数が増えてきたという依頼の通りだからまだいい、後者だと強い魔物が奥地に巣食ったって事になる、どちらにせよ注意しなければならない。


「近付いてきたと思うんだが……姿が見えないな」

「……スライムで間違いないわね、木をよく見るとスライムのいる所でよく見る痕跡があるわ」


 カエデに言われ木をよく見ると粘っとした粘液みたいな物が張り付いていた。


「なるほど、これがスライムの……という事は粘液を吐き出す攻撃をしてくるのか?」

「そうね、対した攻撃ではないのだけど……ネバネバして気持ち悪いから当たらない方がいいわ……」


 寒気がしたのか両手で身体を抱いてブルっと震えるカエデ、粘液まみれになった事あるみたいだな……気を付けよう。


「しかし、あの辺にいると分かっていても姿が見えないと魔法が当てられないな……」

「近付いて杖で叩くだけでも倒せるくらいの弱い魔物で、素早い訳でもないから頑張って叩いてね」

「分かった、じゃいくよ!」

「うん!」


 カエデが身体強化を発動し、2人でスライムの群れがいるであろう所に突っ込む。


「ぷるっ!?」


 スライムがこちらに気付いたようで、草木の合間から粘液を吐き出してきた。


「うおっ……結構勢いよく飛ばしてく……ってうおぁぁぁ!?」


 1つ目の粘液は避けたが、避けた先にも粘液が飛んできて身体中がベタベタになってしまう。


「き、気持ちわりいいいいいいい!ぬめぬめするうううううううう!?」

「ご主人様、我慢しなさい……これが初めてスライムと戦う人みんなが通る道、洗礼よ……」


 こちらを心配しながらもスライムを殴り飛ばしていくカエデ、俺が粘液に悶えてる間にカエデが6匹全て討伐して魔石回収してくれていた。


「ご主人様、一応水で洗い落とせるけど……どうする?」

「顔と腕周りだけは落としとく……」


 魔法で水を出し顔と腕だけ綺麗に洗う、服を濡らすと動きづらくなるからな。

 洗い終わり探索の為に動き出すと、すぐに魔力草を発見した為4つ採集する。


「何とか魔力草は回収出来たな、後はスライムか……うぅ」

「早く片付けて湯浴みしましょ……私も拳がベタベタして不快だわ……」


 早くスライムを見つけて帰りたい……カエデも耳をペタンとさせて元気がなくなっている、心なしか尻尾も力なく垂れ下がっているように見える、これはこれで可愛い。


「索敵に反応、2つが俺の背後方向から来る」

「確認した、ゴブリンね……依頼にはないけど討伐してくる、ご主人様は周りの索敵を続けて」

「ありがとう、頼むぞ」


 カエデがゴブリンの元へ駆け抜けて行った。


「魔法使いだからってスライムを倒せないのはやばいよな……小さい敵を倒す手段を何か見つけないといけないな」


 多分イメージすれば炎の範囲魔法も可能だと思うがここは森の中、火事を起こす訳にはいかない。

 折角だ、各属性魔法が出せないか試してみよう、他属性も出せるなら範囲魔法の模索も出来るかもしれない。


「今は氷、水、火の魔法がイメージで出せてる。その他でいうと雷や土に風、光と闇が一般的か?これらを試そう、どうせなら回復魔法とかも使えたら便利だな」


 杖を前に出して前世での電気で痺れるようなイメージを頭の中に思い浮かべるとスキル名が浮かんできた。


「パラライズサイズ」


 狙った木を雷撃が絡み付くように巻付きバチバチさせている。


「なるほど、雷属性の束縛魔法か?捕まえて痺れさせる感じか……使えそうだな」


 次は土を試してみるか、と思っているとカエデがゴブリンを倒して戻ってきた。


「ご主人様、終わったよー!うん?何これ……木に雷みたいなのが絡み付いてるけど」

「あぁ、パラライズサイズだ、雷属性の束縛魔法っぽいな」

「こんな魔法まで使えるんだ……ご主人様の魔法開発にちょっと興味出てきたわ、大きい魔法とか使ったり出来ないの?」

「試してみるか、スライムを範囲魔法で倒せたら楽だもんな」


 もうあんなベタベタにはなりたくないから範囲魔法になりそうな魔法を考えてみる。


「うーん、1番イメージしやすいのは炎の範囲魔法だけどここでは使えないからなぁ」

「そうね、山火事になったら大変だからね」

「だとすれば、俺の得意な氷で吹雪……をイメージすれば何か出来そうだな……試すか」


 杖を掲げて吹雪のイメージをする、またしてもスキル名が頭の中に浮かんできた。


「ブリザード」


 目の前が吹雪に見舞われる、雪が吹き荒れて範囲を傷付けていく、吹雪自体にダメージがあるようだ。

「おお!これは使えそうだ」

「これならスライムも難なく倒せそうじゃない!?」

「だな、次は水の範囲魔法もイメージしてみよう」


 次は津波をイメージして杖を掲げる、しかし魔力が減る感じがしない。


「あれ、イメージしても発動しないぞ?」

「イメージが足りないか、それかレベルが低いとか魔法の熟練度が足りないからとか??」

「かもしれないな……さすがにどんな魔法でも発動出来たらやばいもんな」

「いや、魔法の高速発動と多種属性魔法使える地点で充分やばいわよ?」


 確かにやばいことしてる自覚はある、魔法の高速発動とか特に、多分神のレアさんが、俺が転生する時に強さを弄っていたのだろう、これは強い。

 唯一覚えられた範囲魔法のブリザードは、多分だが俺の得意属性が氷だから中級系魔法を使えたのだろう、色々調べたり実験する必要がありそうだ。

 ちなみにゴブリンやスライムをPTとして討伐しているのでレベル2に上がっている。


「ん……索敵反応だ、数は5」

「数的にまたスライムね、アイツらよく群れるから。さっきもそうだったけど……何でこんな森の奥地でもないのにスライムが……?」

「数が増えてきたって依頼だが、もしかしたら奥地に何か強い魔物が巣食ったの可能性もあるな、調べる必要があるかもしれない」

「そうね、ただ調べる前に身体を綺麗にしてお昼ご飯食べてからにしましょ?ちょっとお昼の時間回っちゃったみたいだし、ご主人様と作ったサンドイッチ、楽しみなんだからね?」


 日が真上を通り過ぎ、少し斜めになっていた、昼2時くらいか、このスライム倒して帰って調査する時間があればいいが、もし時間が微妙なら明日調査しよう。


「わかった、スライムを倒して戻ろう、身体を綺麗にしてからご飯だ!」


 索敵反応位置に向かって歩いていくとスライムが固まって移動しているのが見えた。


「まとめてやってやる、ブリザード!」


 吹雪がスライムを包み込みスライムがズタズタになっていく。

 案外簡単だった、奥地に生息するからといって強いわけじゃないんだな。


「倒せた、ベタベタにならず済んで良かった……」

「もうあんなベタベタは勘弁だわ……」


 俺達は一旦街に戻って湯浴みをする事にした、身体中がベタベタな為カエデにも手伝ってもらって身体を拭いていく。


「すまんなカエデ、手伝ってもらっちゃって」

「ううん、背中拭くくらいはやらせてほしい、奴隷なのに奴隷らしいこと全然指示したりしないからねご主人様は……」

「いや、奴隷と思ってないからな俺は……」

「わかってるわよ」


 言葉を交わしつつ身体を綺麗に拭き終わると、カエデが自分の身体を拭き始めた。


「俺も背中拭くの手伝うぞ」

「え、でも……」

「いいからいいから!早く拭いてご飯食べよう」

「仕方ないわね……ならお願いご主人様」

「じゃ、拭いていくぞ」


 カエデの背中を布で優しく擦っていく、尻尾を見ると気持ちいいのかゆらゆらと力なく揺れている。


「力加減どうだ?大丈夫か?」

「えぇ、大丈夫よ。ただ前は見ないでね……」

「分かってるよ」


 背中から腰へと移動していき、尻尾の近くまで拭いていく。


「尻尾も拭いていくぞ」

「あっ、尻尾はいいわよ!また夜に自分で拭くから!!」

「そう言わずに〜」


 尻尾を優しく掴み布を滑らしていく、尻尾がピーンと伸びた瞬間俺の目の前にふさふさが、頬擦りしたい。


「ふわぁっ!?自分で拭くって言ったのにぃ……んっ」

「カエデって尻尾がかなり敏感だよな、狼人族はみんな敏感なのか?」

「そ、そうね……大半みんな感覚は鋭いと思うっ……わよ」


 耳をピクピクさせながら気持ちよさそうな顔をするカエデ、その気持ちよさもゾクゾクする感じなのだろうか?体験してみたいものだ。


「可愛いなぁカエデ、また夜拭く時は櫛で梳いてあげるよ」

「全く……ご主人様はもふもふ好きだもんね……」

「もちろん!もふもふの為にこの世界に来たんだからな!」

「仕方ないからやらせてあげるわよ、ちゃんと綺麗にしてよね」

「分かった」


 お互いの身体を拭き終わって、待望のサンドイッチだ!


「待ってました!」

「さぁ食べようか!」

「「いただきます!」」


 カエデが肉入りのサンドイッチを手に取り齧り付く、俺はたまご入りサンドイッチを掴む。


「んんんんん~♪おいしいいい!肉とタレが抜群だし、このタレってレタルとも合うのね!シャキシャキ触感も堪らないわ」

「あぁ、このたまごもかなり美味いぞ、トメトのソースも良い味だ!」

「そっちも食べるー!あむ」

「あぁ!俺が持ってるやつ食ったな!?」

「えへへー食べちゃっ……あっ」

「うん?……あ」


 カエデの顔がどんどん赤くなっていく、俺もその瞬間は思わなかったが間接キスしたことに今気付く。


「あうあう……気分上がり過ぎてつい……」

「いや……俺は気にしないぞ?」

「ぷしゅう……」


 顔が蒸発しそうなくらい赤くなり後ろにひっくり返って目がグルグルしている。


「おーーーいカエデ!かえってこーーーーーい!!」


 色々ハプニングが起きたが、カエデも何とか帰ってきて騒がしいお昼ご飯が済んだころには夕方前になっていた、お互い気分はしっかり落ち着かせ、この後どうするか話し合っていた。


「それじゃ、もう時間も遅いし今日は調査は無しでギルドにクエスト達成報告しに行こうか。ついでにスライムが奥地ではなく森の入口付近にまで出現するようになっているのも伝えなきゃな」

「そうね、それで調査隊が出るのならわざわざ私達が行く必要もなくなるし、わざわざ危ない道を渡る必要ないわよね」


 俺達はギルドに行ってスライムの件で気になる事を話す事にした。

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