第8話 仲間
早朝、目が覚めるとカエデは既に起きていた。窓を開けて外を眺めていた。
「おはようカエデ」
「あ、おはようご主人様……昨日はごめんなさい」
耳をペタンとさせて頭を下げて悲しい顔をしている、そんな顔より笑顔の方が見たい……俺が昨日決心した事を話そう、あとはカエデの気持ち次第だ。
「いや、気にしなくてもいい。もうカエデには辛い思いはさせないから」
「え?どういうこと……?」
「昨日カエデが寝てからしばらく考えてたんだ、これからどうするか……どうしたいかをな。カエデさえよければ俺に買われてくれないか?」
「えっ!?」
カエデはびっくりしたのか目を見開いている。
「ほ……ほんとに?金貨2枚、20万ノルンよ?そんな余裕なんて……」
「そう、確かに今23万400ノルンで3万ノルンくらいしか残らないから余裕はない……だけど俺は決めたんだ」
「……」
俺はカエデの顔を真剣な目で見る、嘘ではなく本当にそう思ってるんだと伝わるように。
「もちろん、カエデの気持ち次第だけどな……どうだ?」
ほんの数秒間が空いたがゆっくりとカエデの口が動き出す。
「……嫌じゃないよ。この2日間ご主人様と一緒に行動して楽しかった、対等に接してくれるから奴隷だと忘れそうになるくらいに……だからご主人様にならって考えたわよ。でも……金銭の事もあるし、ドラゴンの事もあるのよ……?いいの?」
「もちろん、言っただろ?協力するって。二人で頑張って鍛えつつ各地を回ってドラゴンを討つ、その中で世界中にいるもふもふな動物達を愛でる旅をしようじゃないか!カエデも一緒にな!」
それを聞いたカエデは、涙が出そうになるもこらえつつ絞り出すように声を出す。
「私も一緒に……?ほんとにいいの……?ただでさえ資金を使わせるだけではなく、ドラゴン退治に自分のやりたいことにまで私を連れて行きたいなんて……」
「カエデとがいいんだよ、1人で旅するのも寂しいしな……それにカエデとは何だか特別な縁を感じるんだ、手放したくない」
「……ほんと、バカだよねご主人様は」
ふうと息を漏らしてカエデが俺の前まで歩いてきて膝を立ててしゃがみ込む。
「私、カエデはご主人様……氷室高雅に忠誠を誓います。私を……買ってください」
「あぁ、よろしくなカエデ。大変な事も多いと思うが助け合っていこう」
「はい、ご主人様。」
カエデがすっと立ち上がる、後ろを向いて息を吸って吐いて深呼吸をし、頬を二回パンパンと叩いてこちらを見る、しんみりムードから一変、凄くいい笑顔で宣言してきた。
「狼の忠誠を舐めないようにね!絶対に離れないから!」
今までみたカエデの顔で1番といっていいような笑顔を浮かべて俺に抱き着いてきた。
「今までで1番いい笑顔してるよ、カエデ」
「あたりまえよ、奴隷になったこんな私を受け入れてくれたんだもの、ご主人様の事もこの3日間みてきて信用できるって思えたんだから。」
カエデが立ち上がりアイテム袋を取りに行く、中から取り出したのはなんと櫛だった。
「ねぇご主人様、忠誠を誓った暁としてこれを受け取ってくれない?」
「櫛……?」
「ご主人様、毛を整えるのが得意なんだよね?私の居た村の狼人族は、忠誠を誓った相手以外は絶対尻尾は触らせない、そして忠誠を誓った際には櫛で尻尾を梳いて貰って服従するのが習わしなの、だから私の尻尾を梳いてご主人様の物にしてほしい」
カエデがベッドに腰かけて俺に尻尾を向けてくる、こちらに向けられた尻尾を見ると嬉しそうにゆらゆらと揺れている、可愛い。
「わかった、じゃ梳くぞ」
念願の尻尾もふもふが出来る、だけど忠誠の為の毛づくろいだから今だけは真剣にやろう。
尻尾を手に取り優しく櫛を入れていく、さらさらでふわっとしたカエデの尻尾は、かなり良い触り心地で天に上るような気持ちよさだった。
天国が見えたかもしれない。
「んっ……ふぅ……」
気持ちがいいのかカエデの声が漏れていた、尻尾は結構感じやすいようなので優しくする。
梳き技術に関しては日本1位だと俺は思っている、その腕を見せる時だ、DEXもA+あるから問題もないだろう。
「ご主人様……上手過ぎない……?気持ち良すぎる……」
「これが前世での仕事だったからな、ゆっくりやってあげるからリラックスしてていいぞ」
「んんっ……わかった……お願いします」
「了解」
尻尾の根本から優しく櫛を入れ、ゆっくり毛先の方へ向かって梳いていく、マッサージするかのように丁寧に。
「ふあっ……根本凄く良い……」
「根本か、なら少し揉み解しながら櫛を入れてあげよう」
尻尾を支えてる手で根本を揉み解してから櫛を入れて梳く、これを繰り返す。
「んあっ……!これ凄い……これ眠気がある時にされたら気持ち良すぎて即寝落ちしちゃいそう……」
「まだ朝早いし寝てもいいぞ?」
「いや……充分に寝たから問題ないわよ、んんっ……誰かさんのぬくもりのおかげでね」
「そうか、まだもう少し時間掛かるからゆっくりしてな」
根本ばっかりやるのも良くないので毛先も櫛を入れ整えていく、オイルとかあればつやつやになって良いんだがな……買い物の時に探してみるか。
「ふぅ……んっ、どう……?私の尻尾綺麗になってきた?」
「あぁ、すごく綺麗だぞ!よし、これで終わりっと」
「ハァ……ハァ……ありがとうご主人様…」
「だいぶ感じやすいようだな。そろそろいい時間だし、落ち着いたらご飯にしようか」
「わかった……すぐ落ち着くと思うからちょっと待ってね」
深呼吸をし息を整えていくカエデ、改めて綺麗になった尻尾を見てみる。
自分で整えるより何倍も綺麗になっている、オイルも塗っていないはずなのに、つやつやになっているように見えた。
「さすが専門家ね……今まで見た中で1番の仕上がりだわ」
「だろ?また必要な時にやってあげるよ」
「その時は頼むわね、じゃご飯行きましょ!」
食堂へ二人並んで向かう。今日の段取りを話しながら食事を終えて、向かった先はギルドではなく奴隷商館、もちろんカエデを買う為だ。
奴隷商館に入ると、少し怪しめな男がこちらに気付きお辞儀をした。
「いらっしゃいませお客様、ご用件はいかほどで?」
「ガルムさんいますか?カエデについて話があるとお伝えください」
「分かりました、応接室にお通しするのでこちらで少々お待ちください」
「分かりました」
応接室に通されてソファーに座ると男が部屋から出ていった、間もなくドアをノックされ失礼しますと声が聞こえた。
俺とカエデが同時に振り向くと、そこには見覚えのある奴隷の女の子がお茶を持って入ってきた。
「あっ!モニちゃん!」
「カエデちゃんだ!久しぶりっ!」
「久しぶりって、まだ2日前じゃない」
「そうだったっ!」
可愛らしく元気なモニちゃん。奴隷として働いているものの、やせ細ったりせず綺麗な奴隷服で仕事していた、やはりここは奴隷に対して卑下には扱わない噂は本当のようだな。
もし金額がぎりぎりで買えないと言っても、多分カエデは酷い扱いはされないだろう。
「いやいや、お待たせしましたコウガ様。約束は夕方だったはずですが……?」
「あぁ、カエデを買おうと思ってな。交渉しにきた」
「ほぅ……」
ガルムさんはカエデをみた、少し緊張交じりにもじもじしているのが見て取れた、尻尾を見ると本人が手入れする以上に整えられているのに気付き、ガルムさんは目を瞑り2回頷いた。
「なるほど、わかりました。ならば値段は金貨1枚10万ノルンでいかがでしょう?」
「10万ノルン?カエデからは20万ノルンだと聞いていたんだが……」
「そうですね、ですがコウガさんの護衛として任務をカエデさんに与え、しっかりこなしてくれました。なのでその報酬をカエデさんに銀貨60枚、6万ノルン渡すので相殺して14万ノルン、そして残りの4万はコウガさんへの先行投資ですね。私のカンですがコウガさんにはこれからもお世話になると踏んでいるので、お受け取りください」
俺への先行投資……!?安くなるのはありがたいが……大丈夫だろうか?何か裏があるのか?
俺はカエデを見る、カエデも少し驚いていたがこちらの目線に気付くとニコっと笑い頷いた、カエデはこの話に乗ることを決めたみたいだ、俺もカエデと一緒に居るための覚悟は既に決めている、裏があろうが乗ってやる。
「分かりました、本当にいいんですね?10万ノルンで」
「えぇ、構いませんよ。元々カエデさんを奴隷にするつもりはありませんでしたから、本人の覚悟の上で奴隷になってもらったので奴隷としては格安です」
俺はストレージより10万ノルンを取り出し机の上に乗せる、ガルムさんはそれを見て頷きモニさんへ指示を出す。
「モニさん、契約書を」
「分かりましたっ!」
スタタタと走っていき、契約書を持って帰ってきた。
「では、こちらをよく読んでから署名してください。そして書き終わったら奴隷の首輪に血を1滴垂らしてください、契約を掛けます」
「分かりました」
しっかり中身を読み、納得し署名する、もちろんカエデにも中身をしっかり確認してもらっている。
「書けました、血を首輪に垂らしたらいいんですね?」
「そうです、では契約しますよ。」
光が俺たちを包み、奴隷の首輪に模様が付いた、これが契約の証ってやつか。
カエデは正式に俺の奴隷となった、カエデは重荷が下りたのか安心した顔になっている。
「これでカエデさんはコウガさんの奴隷となりました」
「ありがとうございます!」
「ガルムさん、私を助けてくださってから今まで……本当にありがとうございました。私、やりたいことが出来ました」
「目を見たら分かります、コウガさんをしっかりお守りするのですよ?」
「はい!お世話になりました!」
俺たちは奴隷商館から出た、カエデはグッと身体を伸ばしこちらをみた。
「ご主人様、これからよろしくね!」
「あぁ!よろしく!」
お互い笑って走り出す、俺たちの2人の旅がこれから始まる。
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『うふふ……加護の恩恵あり、ですね』
レアは天界より彼の姿をずっと見守っていた、彼の転生時にあんな所に落としたのも彼女の計画通り。
『動物等って獣人も含む事を彼と彼女は気付くでしょうか?楽しみですねぇ、彼女は若干気付いてるように見えますが』
これから起きる事も殆ど、神の手の平の上だという事を彼はまだ知る由がない。
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