第7話 初クエスト
ギルドに着いた俺は、クエスト板に貼られている依頼に目を通す。
「俺はランクのFだから……この辺りがランクF用のクエストか」
薬草の採集、ゴブリンの討伐、市場調査、ペットの散歩、配達、庭師の手伝い。
色々あるな、最低ランクだからそれ程難しいのは無さそうだ。
「魔法の練習するって決めてるから外に出てやれるクエスト……これとこれにするか。カエデ、これなら大丈夫か?」
「薬草採集とゴブリン討伐、うん!問題ないかな、場所も同じ場所だし」
「よし、じゃこれにしよう」
クエスト依頼書を手に取り受付する。
受付中、カエデがギルドにある本棚を物色し本を1冊借りていた。
「本借りたのか?」
「うん、必要になると思ってね、後で見せるよ」
「分かった、じゃ初仕事行くか!」
「うん、ご主人様!」
トライデント王国から外に出て東側にあるかなり広い森に入る、俺が転生して落ちて来た森だ。
クエスト受注してからギルドでマップ確認した所、この森はテラー大森林と呼ばれる所だそうで、この森の奥地にトーラン村があるらしい。馬車でも通り抜けるのに2日~3日掛かるそうだ
「この森、テラーは西区と東区、北区があって、西区がトライデント王国側、東区はこの王国の隣街、サンビークがあるの。北区は街はないけど山脈があって、その手前に私の村、トーラン村があるの……でもあそこはもう……」
言葉が詰まり歯を噛み締めるカエデ、カエデの頭を撫でてやる。
「ガルムさんから聞いたよ、ドラゴンの襲撃にあって壊滅したって……」
「なるほど聞いてたのね、お母さんがやられて……お父さんも私達を逃がす為に戦ってくれて……ここでああしていればとかの後悔はあるけど、私は弱いからきっと守れなかった。私は強くなりたい、そしてあのドラゴンに一矢報いたい、出来る事なら討伐したい」
力強く決意に満ちた目で語ってくる、時間は少ないが協力したいと思う。
「1日2日でどうにかなる訳ではないけど、俺も協力するよ」
「ありがとう、でもまずはご主人様の魔法の練習からね。この辺りなら魔法使っても大丈夫だし、ゴブリン討伐に向けて魔法のコツを掴みましょ!これ読むといいわ」
「これは……初心者用の魔導書か!ありがとう!ただ1回だけ自力でアイスショットを放ってみるよ、無理そうなら魔導書借りるぞ」
杖を握り前に突き出す、魔力を杖に通して氷の礫をイメージする。
小説とか読んでたおかけで、こうしたら魔法が出るのではないかと予測はついていたので、その通りやってみると魔力が消費される感覚を覚えた。
「アイスショット!」
杖の先から氷の礫が発射され、木に突き刺さる、礫が刺さった周りを少し凍らせていた。
「おお、使えた!」
「こんなすぐ魔法使えるなんて…しかも魔法の発動早くない!?ご主人様、もしかして前世で魔法使いだったり?」
「いや、ただの人間だったし魔法のない世界だったけど……」
「えぇ……もしや転生の副産物?凄いとは思うけどズルくない……?どんな魔法使いでも多少の魔力を溜める時間が要るよ?」
「確かにそうだな、俺が思うに魔法ってイメージが大事だと思うんだよね、自分の所持属性によって使えない属性魔法とかはありそうだけど……イメージがしっかり出来ていたら知らない魔法も使える気がするんだ」
再び杖を前に突き出し、水のボールをイメージして魔力を流してみる、脳内で知るはずのない魔法の名前が浮かんできた。
「ウォーターボール!」
水の玉が前に発射されてる、木に当たると水が弾けて少しだけ木を削った。
「やっぱり使えた!」
「え……えっ?うそ!?氷魔法しかスキル持ってなかったよね!?イメージだけでこんな事が出来るの!?」
「もしかしたら転生した時の恩恵があるのかもしれないな、あと火魔法だけ試してゴブリン探しに行こうか」
「わ、わかった……凄い人なのはよくわかった(ちょっとかっこいいって感じちゃった……)」
炎の矢をイメージして火魔法を試してみるとファイヤーアローを覚えた。
魔力を抑えてイメージすればスキルとは関係なく、指先から火を出したり水を出したりといった生活に役に立ちそうな使い方も出来た、魔法って便利だな。
索敵しながら歩くがゴブリンはまだ居ないようだ、ふと隣を見るとカエデが何かに気付きしゃがみ込んだ。
「あっ、これが薬草よ、覚えてねご主人様」
「ありがとうカエデ!そうだ、鑑定しながら歩こう、そうすればすぐ薬草集められそうだ」
薬草1つ採集しストレージへ入れる、依頼は薬草10個納品だ、鑑定すると近くに薬草がそこそこの数が生えていたので採集していく。
魔力草も近場に生えていたのをカエデが教えてくれた、これが魔力ポーションの素材になるらしい、ついでに採集していこう。
「これで薬草10個!近場にあって助かった、後はゴブリン討伐でOKだな」
「ご主人様、そろそろお昼の時間だしご飯食べましょ!」
「そうだね、索敵にはまだ反応ないしご飯休憩にしようか」
「やった!お腹空いたー!」
俺には索敵スキルがあるし、お互いに危険察知のスキルもあるから気を緩めなければ大丈夫だろう。
木の根っこに座りストレージよりパンと肉串焼を取り出してカエデに手渡す。
「「いただきます!」」
肉を頬張ると肉汁が口の中に溢れ出す。
「肉汁がジューシーで美味いな!」
「美味しいねこれ!もしかしたらパンに肉挟んだらもっと美味しいんじゃない!?」
カエデがパンの上側を半分に裂き、肉を挟んで肉サンドの出来上がり、カエデが1口頬張る。
「んんん〜♪美味しいっ!!」
「どれどれ俺も!」
俺も同じようにして食べてみる。
「タレがパンに絡んでめちゃくちゃ美味いな!噛めば肉汁がパンに染みて更に美味くなる!これはリピートしてもいいかもしれ……っ!?」
「どうしたのご主人様?もしかして索敵に?」
俺の索敵に反応があった、右手方向から3つの反応が固まって近付いてきた、冒険者か敵か。
パンを口に放り込み、近くの草木に隠れて反応がある方向をみる、あれは……ゴブリンだ。
「ゴブリンが3体来てる」
「私1人でも大丈夫だけど、どうする?魔法試す?」
初戦闘だ、旅や冒険者として生きていくには戦闘は免れない、相手を倒すってことに抵抗はないが緊張はする。
「なら2体仕留めて貰えるか?俺が先制して魔法で1体仕留める」
「了解、ご主人様!」
「はっ!」
カエデが声を出した途端に力強い魔力の流れを感じた、これが身体強化か。
「いつでも良いよご主人様」
「分かった、いくよっ!アイスショット!」
「ふっ!」
氷の礫をゴブリンに向かって飛ばす、それを追い掛けるようにカエデが走り出してゴブリンに近付いていく。
「ぎぎぃ!?」
ゴブリンがこちらに気付いたが遅かった、ゴブリンの頭に氷の礫がヒットし倒れる。
緊張したが魔法コントロールも乱れずに初めて敵を倒せた、転生する時から覚悟はしてた、問題はない。
「はぁぁぁ!」
走りながら拳に力を溜めていたカエデのパンチが2体目のゴブリンの頭を殴り吹き飛ばす。
「ゴブァッ!」
吹き飛んだゴブリンは木に叩き付けられた。
「ギギィ!」
3体目のゴブリンがカエデに棍棒を振りかざすが篭手でキッチリ弾き、回し蹴りでゴブリンを蹴り飛ばす。
「ギャッ!」
最後のゴブリンも倒れたのを確認し俺もカエデの元に向かう。
「お疲れ様!カエデ凄いな、あんな動きが出来るのか」
「身体強化してたからね、ご主人様こそ、魔法のコントロールが完璧だったじゃない!それも凄いと思うわ」
「ありがとう!ゴブリン討伐は5体だから、索敵続けるよ」
索敵しつつゴブリンの核となる魔石を取り出す、するとゴブリンの身体がスっと消えていった。
「魔石を取り出すと身体は消えるんだな」
「そうね、だから解体する時は素材や換金出来る部位を切り落としてから魔石取るのを忘れずに、ゴブリンは素材も換金部位もないから魔石だけでいいわ」
「分かった、ありがとう!」
次に見付けたのもゴブリン3体、これも苦戦すること無く討伐して依頼を無事に終えてギルドに帰ってきた、1体オーバーしたが気にしない。
「お疲れ様でしたコウガさん、こちらが報酬とゴブリンの魔石を換金した合計4200ノルンです」
「ありがとうございます」
報告を受け取って宿へ帰ってきた、久しぶりに身体を動かしたような気がして少し疲れがあった、これから旅もする予定だから、体力付けなくちゃな。
「お疲れ様!」
「お疲れご主人様、どうだった?初めてのクエストは」
「最初から分かってたけど、冒険者は命懸けなんだなって再認識したよ、緊張はしたがゴブリン相手に遅れ取る事なくダメージ無しで討伐出来たからよかったけどな」
「そうね、私達は危険察知とご主人様は索敵があるからまだマシだけど、油断はしちゃダメ」
カエデは真剣な顔でじっとこちらを見てくる。
「分かった、油断しないようにするよ」
「よろしい」
真剣な顔をしていたカエデも俺の回答を聞いてふっと笑みがこぼれた。
そして食堂で夕飯を取り、お互い湯浴みを済ませてベッドに潜り込む、カエデも隣に入ってきて、こっちを見て話し掛けてきた。
「明日奴隷商館に帰らなきゃなんだよね……」
「その約束だからな」
「ガルムさんは悪い奴隷商人じゃないのはわかる、だけどやっぱり不安なのよね……」
少し暗い顔をするカエデ、不安で耳もペタンとなってしまっている。
「変な奴に買われるのは嫌だよな……」
「それはない、私拒否権貰ってるからね」
「拒否権?買い手がいたとしても行かないで済むのか?」
「そうね、私がこの人で良いって決めて借金分返済するまで主に尽くすか、借金分を奴隷として働くことで返済出来たら、奴隷から解放って事になってるわね」
「借金はいくら?」
「金貨2枚だから20万ノルン。私を拾って治療し、世話をしてくれた分ね」
「なるほど……」
金貨2枚……払えなくはないが生活が出来なくなる、買えない……か。
「まぁ、地道に働いて返すと思うわ……買い手が現れたとしても見知らぬ人に簡単には認めないから……」
それでもカエデの顔は晴れない、悲しい顔をしてこちらを見つめてくる、俺はカエデを抱き締めた。
「!?」
「カエデ、不安なら俺を頼ってほしい。今はだけどカエデの主人は俺なんだ、不安なら抱き締めてあげるから、いっぱい頼ってくれ」
「……っ」
声は出さないが泣いているのだろう、ひっくひっくと身体が動いている、頭を撫でながら抱き締め続けた。
落ち着いたと思ったらすぅすぅと息の漏れる音が聞こえてきた、眠ったようだ。
「おやすみ……カエデ」
すぐにはカエデは買われない(本人が拒否る)と踏んで俺は心の中でとある決意をした。
カエデを買って旅の仲間として迎え入れることを。
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