フシギの森へ

天明福太郎

フシギの森へ

みどりのたぬきは今日も元気にお外で遊んでいた。

全身、緑の毛皮がチャームポイントのかわいいたぬきだ。

お転婆なのがたまに傷だが、裏を返せば元気だという事も出来た。

みどりのたぬきは気が付くと遠くまで遊びに来ていた。

見知らぬ風景にみどりのたぬきは少し不安になった。


「おーーーい」

「……………」


森に声が吸い込まれていき、不安な気持ちは増えていった。


「おーーーーーーーーーい」

「……………………………」


さっきより大きな声を出したが、その声もすべて吸い込まれていった。

みどりのたぬきはめちゃくちゃに声を出した。


「おーーーーーーーーーーい」

「誰かーーーーーーーーーー」

「返事してーーーーーーーー」

「………………………………」


無音が辺りを支配していた。

みどりのたぬきは気が付かないうちに涙を流していた。


「だれか。だれか。いないの?」

「………………………おーい」


どこかで声が聞こえた。


「だれか。だれかいるの?」

「おーい」

「ここだよ。ここ、ここ。」


みどりのたぬきは必死に声を出した。


「おーい。大丈夫?」

「大丈夫だよ……あ。」


向こうから走ってきたのは真っ赤な毛皮のきつねだった。

あかいきつねはいじわるで声を掛けてはいけない。

僕たちが初めに教わる事だった。

あかいきつねもこっちに気が付いて遠巻きにこちらの様子を見ていた。


「迷っているの?」

「え。あ。あの。」


あかいきつねは心配そうに尋ねてきた。

声を掛けてきたことに驚き言葉を継げなかった。


「大丈夫?困っているの。」


あかいきつねは話に聞いていたとは全く違い、やさしかった。

年齢は同じくらいだろうが、一つ一つの動作に優しさが溢れていた。

気が付いたら、その雰囲気にほだされていた。


「……うん。」

「家ってどこにあるの。」

「わからない。」

「そっか。じゃあついてきて。」

「え?」


あかいきつねはみどりのたぬきの手を引っ張って走り出していった。


「どこに行くの?」

「フシギの森。」

「フシギのモリ?」

「そう。そこを通り抜けると思ったところにたどり着けれるんだよ。」

「ほんと?」

「うん。本当!!」


あかいきつねの迷いのない足取りに気が付いていけばついて行っていた。


「ちょっと待って。」

「どうしたの。」


みどりのたぬきは急に足を止めた、少し先に違和感を感じたのだ。


「あれって?」

「もう少しでフシギの森だね。」

「怖くないの?」

「大丈夫だよ。怖いなら少し目を瞑っているばいいから。」

「目をつぶる?」

「……分かった。」


みどりのたぬきは目を瞑った。

不思議にも信用してみようと思ったのだ。


「ゆっくり歩いてね。」

「うん。」

「足元何もないからね。」

「うん。」

「大丈夫だからね。」

「うん。」

「ゆっくりすすむね。」

「うん。」

「もう大丈夫。」


目を開けるとそこはいつもの森だった。


「ありが……」


そこにはあかいきつねがいなかった。

ただ、手にはさっきまで手を握っていたであろうぬくもりだけが残っていた。

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フシギの森へ 天明福太郎 @tennmei

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