69_美少女との別れ

父さんとのビデオ通話は続いている。

そう言えば、こちらは土曜の夕方だが、向こうは朝みたいだ。

今日のために、休みの日に早起きしてくれたのかもしれない。


『その・・・あの頃のさくらちゃんはちょっと不安定な時もあって、おばあちゃんとセリカのどっちかと常に一緒だったんだ。目が離せないというか・・・』


さくらは、ハンカチで鼻を拭いている。

もしかしたら、あまり覚えが無いのかもしれない。


『俺も色々調整したけど、引っ越しの時期はほとんどずらせずに、俺たちは今のその家に引っ越すことになった』


「さくらは!?さくらはどうなったの!?」


『お別れの日に、さくらちゃんはお前にペンダントみたいなものをプレゼントしていたな。離れたくなかったんだろう。俺も胸が締め付けられる思いだった・・・』


それがこのコインペンダントだろうか・・・

ローテーブルの上に置いていたコインペンダントを手に取ると、さくらがコクリと頷いた。


因みに、照葉(てるは)はハンカチを持って号泣中だ。

この手の話にめちゃくちゃ弱いのは昔からだ。

照葉(てるは)がめちゃくちゃ取り乱してくれているので、俺は少し冷静に話を聞くことが出来ている。


「セリカくんは・・・」


さくらはそこまで言って、続けるのをやめた。

手を握ったが、首を横に振るだけだった。


『まあ、俺たちは心配だったけど、引っ越してな・・・家の片付けも終わらないくらいの頃だったよ。百合子の病気が分かったのは・・・』


さくらが息をのんだ。


『今思えば、さくらちゃんには悪いことをしたね。うちも余裕がなくてね・・・いろんな方法を試してみたんだけど・・・』


照葉(てるは)は安定の号泣。

新しいティッシュ箱を開けて、目の前に置いてやった。


『今度は、セリカが不安定になったんだ・・・表情がなくなったみたいに・・・。ちょうど、以前のさくらちゃんと同じみたいだったよ』


「・・・」


『当時、小鳥遊(たかなし)家とは仕事の関係もあって色々と助けてくれていたんだ。俺も・・・正直余裕はなかった・・・自分のことで精いっぱいで・・・良い親ではなかったな』


その辺も記憶になかった。

自分の家の話が出てきて、照葉(てるは)は座りなおした。


『小鳥遊(たかなし)家には、照葉(てるは)ちゃんがいて、セリカとよく遊んでくれていたみたいだった』


「それは覚えている。昔から・・・小さい時から照葉(てるは)とは・・・」


いや、待てよ。

小さい時って、俺はこっちに来ていない。

照葉(てるは)とは会っていないはずだ。


『この小さい時から遊んでいた』という記憶は・・・


父さんが続けた。


『福岡では、さくらちゃんがいてくれたから、セリカも楽しそうだった。引っ越して、ちょうど同じ年の女の子がいて・・・セリカもしばらくしたら、笑うようになってきたんだ』


ちょっと待て。

俺は小さい時の記憶の中で、さくらと照葉(てるは)がごっちゃになっているってことか!?


『俺は良い父親とは程遠い。結局今も仕事に逃げ続けているだけかもしれないな・・・お前のことも結局、小鳥遊家と栞ちゃんに任せてしまってるしな・・・』


俺の記憶がおかしい点があるというのは、少なくとも認識が出来た。

ただ、俺は全く覚えていない。

特に福岡でのことは全く覚えていないのだ。


ふと気づくと、さくらが座ったまま、うずくまって泣いていた。


「さくら・・・」


俺はさくらの背中を撫でた。


さくらはゆっくりと身体を起こし、俺に俺の知らない事実を教えてくれた。


「セリカくんは・・・引っ越す前、手紙を書くって・・・(ぐずっ)・・・すぐに遊びに来るって(ずず)・・・すぐに大きくなって迎えに来るからって・・・」


「俺が・・・」


小学生の俺はどれだけの距離があるのか理解もせず、将来のことも考えず、そんな約束をしたのか。


「迎えに行くまで、おばあちゃんと2人で頑張っとけって・・・(うううっ)」


さくらが、嗚咽を堪えながら話してくれている。


「わたっ・・・私っ・・・セリカくんが・・・一度も手紙をくれなかったから・・・嫌われたと思って・・・遊びに来てくれるって言ったのに・・・(ぐずっううう)」


「・・・」


「ずっと、嫌われたと思って・・・おば・・・おばあちゃんが亡くなった時に・・・もう、一人になったって思って・・・」


え!?ちょっと待て!俺酷くないか!?

さくらに良いことばかり言って、その後、一度も連絡しなかったばかりか、覚えてすらいないって。


「さくらお前・・・」


「ううう・・・」


さくらは嗚咽を堪えきれないで泣き崩れた。


俺はさくらの背中に手を当てて言った。


「今まで忘れていてごめん。言い訳だけど・・・」


さくらは涙をぬぐいながらも、こちらを見てくれた。


「さくらのことを嫌っていた訳じゃなくて・・・正直、今も福岡での記憶がほとんどない。小さい時から遊んだ子もずっと照葉(てるは)だと思ってた・・・」


「うわーん!」


さくらが泣きながら抱き着いてきた。

俺は、受け止め抱きしめた。


「ごめん。俺はお前をずっと待たせていたのか。あの時、うちに来てくれてよかった。手遅れになる前でよかった」


あんなに完璧な美少女が、ぐちゃぐちゃに泣き崩れていた。

俺は、知らないこととはいえ、さくらに酷いことそしていた。

ずっと・・・6年間もさくらは一人で耐えていたのか。


「ううう・・・良かったぁ・・・良かったぁ、嫌われてなかった・・・」


照葉(てるは)も『つられ号泣』していた。

両脇で女の子が号泣しているのも変な感じだが・・・


『セリカ、愛されているみたいでよかったな』

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