68_セリカのお父さん
『いやー、さくらちゃん久しぶり!以前と違って明るい顔で嬉しいよ。以前は・・・暗い顔だったんで、心配だったんだよ~』
シリアス展開を予想していた俺の予想を初っ端からぶち壊したのは、俺の父さんだ。
土曜日に、俺の家に照葉(てるは)を呼び、俺の子供時代のことを聞くことになった。
俺の知らない、さくらとの出会い。
自分の事なのに、自分は知らない。
このことに俺は少し焦りと苛立(いらだ)ちを感じ始めていた。
『照葉(てるは)ちゃんは可愛くなったねぇ!』
それはいいから!
何だか出鼻をくじかれ、変な空気になっていた。
『それにしても、3人とも仲が良いねぇ。仲良くくっついてソファに座って』
「画角があるんだよ」
リビングにいて、テレビのビデオ通話機能を使って、父さんとつなげている。
ただ、WEBカメラはあまり良いものは無く、手元にあるものを使っているので、ズームやズームアウトが手動なのだ。
しかも、画素数が終わっていた。
リビング全体を映るようにしていると、それぞれの顔が認識できない。
3人の顔が認識できるようにしつつ、できるだけズーム・・・それを何とか実現しているのが今のフォーメンションなのだ。
コの字型のリビングのソファの真ん中に3人並んで座っている。
照葉(てるは)もいるから、『もう少し画角を広げて3人の間隔を広げようか』と提案したら、『画質を下げるのはお父さんに失礼なのでこのままで・・・』とWEB時代の謎礼儀の話をしだした。
まあ、夏でもないし、暑いというわけではない。
3人並んでビデオ通話に臨むことになったのだ。
「父さん、俺の子供時代の事、特に福岡でのことを話してくれ」
『さて・・・どこから話したらいいもんか・・・』
珍しく父さんが話しにくそうだ。
鼻の頭をかきながら横を向いている。
「俺、福岡の家の事・・・覚えてないんだ」
『そうかぁ・・・まず、最初に聞くけど、母さんの事』
「母さんの事?」
『百合子・・・お前の母さんは?』
「母さんは・・・俺が小さい時に亡くなった・・・」
照葉(てるは)は下を向いた。
さくらは、驚いた表情をして俺の方を見た。
確かに、さくらには話していなかったな。
『そうだ。どうして死んだか覚えてるか?』
「病気だった・・・」
『そう、白血病って血液のガンみたいなものだった。分かったときにはもう、手遅れって感じだったんだよ』
俺も少し悲しい気持ちになった。
もう、ずいぶん昔の話なのにな。
『色々手は尽くしたんだが、あれよあれよという間に悪くなった。とにかく、俺もなりふり構っていられない程足掻いた。まあ、結果は・・・な』
さくらが口元に手を当てている。
それほど衝撃的な話が今のどこかにあっただろうか。
「それは、こっちに来てからだろう?俺が知りたいのは福岡でのことだ」
『うーん、そうだな。俺の仕事の関係で福岡に住んでいたことがある。お前が生まれたのも福岡だ』
「ああ・・・」
『の仕事は工場を建てることみたいなところがあるから、福岡でも割と田舎の方で暮らしていたな』
「・・・」
『当時住んでいた家の裏の家・・・厳密に言えばうちの方が裏の家だったかもしれないが、堀園(ほりぞの)さんの家があった。』
「え!?俺とさくらの家が!?」
『ああ、お向かいと言うより、背中合わせみたいな感じでな。家族ぐるみで仲が良かったよ』
この時点で全く覚えがない。
誰か他人の話を聞かされているような・・・そんなしっくりこない感じだ。
『お前が生まれた年、堀園家にもさくらちゃんが生まれた』
俺がさくらに視線を向けると、さくらもこちらを見て、肯いていた。
さくらが知る『事実』とも合っているのだろう。
『2人はそうだなぁ・・・兄妹みたいに仲良く育った。よく一緒に遊んでいたな』
「俺が・・・さくらと」
さくらも頷いている。
『さくらちゃんは・・・本人を前に言うのも何だけど、小さい時はあんまり友達を作るのが上手じゃなくて、友達は少なかったかな』
そうなのか。
今では想像するのも難しい話だ。
『だから、ご両親とおばあちゃんと、セリカにべったりで・・・可愛かったなぁ』
照葉(てるは)が少しむすっとしている。
なぜ、さくらに嫉妬した!?
『さくらちゃんのことをご両親もすごく可愛がっていた。実は、俺は堀園家を『理想の家庭』だと思って、堀園家を目指していたところがあるくらいだよ』
そうなのか?
俺には全く見えない話だった。
『セリカとも仲が良いし、このまま仲がいい様だったら、お互いの子供同士結婚したらいいなと、よく酒を飲みながら話していたんだ』
それが『許嫁』の部分だろうか・・・
『そんな幸せいっぱいだった堀園家だったが、ある日交通事故でご両親とも亡くなって・・・』
驚いてさくらの方を見ると、目じりの涙をぬぐっていた。
当時のことを思い出しているのかもしれない。
俺は、さくらの手を膝の上で握った。
さくらは、目に涙を浮かべたまま、少し微笑んでくれた。
俺ももらい泣きしそうだ。
『元々、ご両親にべったりだったさくらちゃんだったから、しばらく表情がなくなって・・・笑わない子供になってしまった。ショックが大きすぎたんだろうなぁ』
父さんも表情が沈んでいる。
現実に起きたことなのだろう。
俺には全く覚えがないことだが。
『そしたら、セリカが、さくらちゃんを元気づけるんだって言って、それまで以上に世話を焼いていてな・・・』
「その時、セリカくんが『俺が傍にいるから大丈夫』って言ってくれたのが嬉しくて・・・その頃には、もう大好きでした・・・」
さくらの表情は更に崩れ、ずっと鼻をすすっている。
数年たった今でも、悲しいことなのは容易に想像できる。
『うちも心配していたんだが・・・ちょうどその頃、俺の転勤が決まったんだ』
・・・絶句だった。
そんな状態の時に、俺はさくらを置いて引っ越し?
衝撃的なことのはずなのに、本当に全く覚えていない内容だった。
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