55_美少女とファーストキス

さくらと付き合うことになったが、1日経って生活はほぼ変わらない。

付き合ってるっぽいことをしようと思ったが、何も思いつかなかった。


本田に相談しようとしたら『俺は今、傷心中なんだから傷口に塩を塗り込むような真似はするなー!』と言って逃げて行った。


本田は役に立たない。

これまで一度だって役立ったことなんてあるだろうか。


こういう時は、豊田だろう。

何と言っても、クラスの女王、六連星(むつらぼし)朱織(あかり)の彼氏だ。

美男・美女カップルだから注目度も高いし、付き合いも長いらしい。


改めて聞くのは恥ずかしいので、休み時間に豊田の席の隣に行ってこっそり聞いた。


「付き合ってるっぽいこと?」


「そ、なんか思いつかなくて」


「家の方向が同じなら、一緒に登下校とか?」


「あー、それはしてる」


「じゃあ、一緒に昼ご飯を食べる・・・も、しているみたいだね」


「うん・・・」


そうだなぁと豊田が目線を少し上げ、あごを触りながら言った。


「ハグとかは?」


「ああ、ハグ!」


さくらに抱きしめられたことはあったが、抱きしめたことはなかった。

なるほど。

付き合ってるっぽい。


「あと・・・キスとかは?」


「ああ、キス!」


口元は舐められたが、キスはまだ・・・で、いいんだよな?


「晄士(あきと)、何話してんの?」


座っている豊田のすぐ横に、六連星(むつらぼし)朱織(あかり)が立った。


「あ、いや、男だけの話だよ」


相談内容なんかは、さりげなく隠してくれる。

豊田はとてもいいヤツだ。


「あ!鳥屋部(とやべ)くん!」


「え!?なに!?」


六連星(むつらぼし)さんが俺に指をさしてきた。

なに!?怖いんだけど。


「堀園(ほりぞの)さんに言っといて!今度は負けないからって!」


えー、さくら、六連星(むつらぼし)さんと何か張り合ってんの?


「あ、ああ・・・。豊田、ありがと。参考になったわ」


「いや、色々大変だと思うけど、また何かあったら相談してくれ」


「ありがと。お前いいヤツだな」


「へへーん!晄士(あきと)イケメンでしょ!」


「ああ、六連星(むつらぼし)さんともお似合いだと思うよ」


「なっ!鳥屋部(とやべ)くんにも負けないんだからね!」


え!?なに!?

俺なんか変なこと言った!?


「こら、朱織(あかり)」


「はーい」


すごい、何か分からないけど、無敵の六連星(むつらぼし)さんを制御することが出来る。

豊田って、やっぱすげえやつだなぁ。



家に帰って、いつも通りに、さくらにご飯を作ってもらって、ゲームして、風呂に入った。

寝る段階になって、さくらから聞かれた。


「私には聞いてくれないんですか?」


「ん?何のこと?」


「今日、豊田くんに何か相談してましたよね?」


「ああ、そのこと。よく見てたな」


既に、俺たちはベッドに入って寝る大勢だった。

ただ、付き合い始めた昨日から、さくらがバッチリ抱き着いて寝るようになった。


俺的には益々寝にくくなった。(もちろん嬉しいけど)

主に下半身的な理由で・・・


「いや、さくらと付き合うようになったから、なんかそれっぽいことをしたいなって・・・」


「それっぽいこと?」


「恋人同士っぽいこと。せっかくだしね」


「じゃ、じゃあ、首輪!首輪はどうでしょう!?セリカくんにはリードを引いてもらって・・・」


さくらが上半身を起き上がらせて、俺を覗き込むようにして言った。

しかも息が荒い。


「興奮しているとこ悪いけど、首輪は買わないから・・・周囲にそんな恋人同士は見たことない」


「では、心臓を・・・」


「心臓!?なぜ心臓なんだよ!?今の会話でどこから出てきたんだよ!物騒だな」


「いえ・・・なんでもないです・・・」


さくらが何か残念そうなのは気のせいだろうか・・・


「その・・・付き合い始めたんだし、キス・・・したいな」


俺が提案した。


「キス・・・はい・・・」


なんか嬉しそうだ。


さくらが横に寝て目をつぶった。

そして、目をつぶって、少し顎をあげた。


「どうぞ」


・・・こんな簡単な感じでいいのか!?

こうあっさりしていると、男としてあんまり盛り上がらないんだけど・・・


よく見ると、さくらは顔が真っ赤になっている。

しかも、胸のところで握られた手はわずかに震えていた。


普段グイグイくるくせに、こんな時だけ真っ赤になって・・・

攻撃力は100だけど、防御力は0なんだよな、さくらって。


(ちゅ)


唇を重ねるだけのキス。

初めてのちゃんとしたキスだ。


「き・・・キス・・・しました」


さくらが真っ赤になって上半身を起き上がらせた。


「ああ、キスしました。嫌だった?」


「(ぶんぶんぶんぶん)とんでもないです!ちょ、ちょっと失礼します!」


さくらは、どこかに逃げて行った。

照れ隠しなのかな?

照れ隠しなのか!?

まさか、嫌われてないよね?


行動が読めないのがさくらの面白いところだ。

でも、一つ気付いてしまった。


今後、誰かにどこかで『ファーストキスはどこでしたか?』と聞かれた時に、正直に答えるとしたら、自分のベッドの中と答えることになってしまうのだ・・・


なんか、ダメな気がする。

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