51_セリカと本田の1ON1後編
ボールは一回本田にパス。
そのボールは俺に返される。
これが1ON1のスタートだ。
(ポス・・・ダダン!)
スタート3秒で1回目の俺のゴール。
普通にダッシュしてシュートしたら入った。
「ちょっ!」
本田が焦ってる。
そう言えば、春休みはさくらがバスケしたいというので、コートのある公園まで歩いて行っていた。
そこで、2人でバスケをした。
さくらはバスケもめちゃくちゃうまい。
2人でプレイしていたら、ボールが消えるのだ。
右手でドリブルしていると思ったら、目線で進行方向を偽装して、その間に左手にドリブルを移す『ショルダーフェイク』がうまい。
俺も習いながら何度もやった。
それでもさくらのボールは絶対に取れなかった。
手が届きそうになったら、相手に背中を向けて、ガードするのだ。
ドリブルしながらくるりと回るのも技らしくて、『スピンムーブ』とか言うらしい。
ついでにシュートだ。
相手に近い足を強く踏み込むことで、相手との間合いを作ることが出来る。
更にジャンプのタイミングをズラすことでガードされることなくシュートできる。
俺が習ったのはこの3つだけ。
要するにドリブルして行って、相手が右から来たら、右に向かうと見せかけて左に行く。
左から来たら、左に行くと見せかけて、右に行く。
相手が近づいてきたら、ドリブルしながら背中を向ける。
ゴールが近づいたら右か左か、後ろかに一旦飛んだ後、高くジャンプしてシュートする。
春休みの間、結構さくらと遊んでた。
ただ、俺はさくらに良いところを見せたくて、かなり真剣にやった。
こんなところでその成果が役に立つとは。
もちろん、本田はバスケ部だからそれなりにうまい。
ボールは取られる。
ただ、ボールを取ったときは、ひたすらできることをやるだけだ。
結果は・・・
「10対8!鳥屋部(とやべ)セリカ勝利!」
豊田の結果発表が体育館に響く。
「「「わー!勝ったー!」」」
いや、『勝った』ってみんな俺の味方か!?
それとも、本田の敵なのか!?
本田はゴール下で大の字になって倒れていた。
「ちくしょー負けたー!帰宅部に負けたー!」
コートをバンバン叩いている。
六連星(むつらぼし)朱織(あかり)は、豊田に寄りかかって窒息しそうなほど笑っている。
「ごめっ、ごめっ、笑っちゃ悪いけど・・・あはっあはははは・・・息が!息ができない!」
目に涙が浮かぶほどウケている。
鈴木や松田はあえて距離を取り、本田がみじめにならないように気を使っているようだ。
俺の周りには男女たくさんが集まってきて、みんな肩をバンバン叩いていく。
痛いから!
それ、絶対跡残るから!
「セリカ最高!」
「普通、この流れで勝つか!?普通」
「あーあ、だから本田くんには、やめた方が良いって言ったのに・・・」
さくらがぽつりとつぶやいた。
この結果が予想できてたってこと!?
恐ろしい子。
そして、みんなに押されるように照葉(てるは)が俺の前に連れてこられる。
今日の『賞品』だ。
「あの~、セリカくんが勝ったら、私・・・セリカくんと・・・つきっ、つっ、付き合うってことでしゅか!?」
どうするのこれ。
俺が勝った時にどうするのかも考えてない。
そもそも、照葉(てるは)は勝った方と付き合うみたいな話しに同意してない。
色々抜けている。
さすが本田。
どうすんだよこれ。
(パチパチパチパチ)
何か、みんなの拍手が始まった。
「「「〽タンタカターン♪タンタカターン♪」」」
誰が歌い始めたのか、みんなでウエディングマーチを口ずさみ、照葉(てるは)が背中を押されて俺の前に更に近づけられる。
これ、どうしたら収まるの!?
「セリカくん・・・」
照葉(てるは)が真っ赤な顔で、もじもじしながら目の前に立っている。
いやいやいや、どうするんだこれ!?
「「「キース!キース!キース!」」」
ついに、キスコールが始まった。
俺の周囲には敵しかいない!
ついさっきまで、みんな味方じゃなかった!?
「セリカくん・・・」
照葉(てるは)は顔を真っ赤にしたまま、少しずつ近づいてきた。
「ダメ―!セリカくんはダメ―!」
さくらが飛び込んできて、俺の胴辺りに抱き着いた。
「おーっと、ここで嫁の乱入だ!どうなる三角関係!?」
誰かがリングアナウンス風に茶化して、みんな大爆笑だった。
誰一人喜ばない大騒動は、うやむやのうちに終わった。
■後日談
(パンッ)「小鳥遊(たかなし)さん・・・ごめん」
顔の前で手を合わせて、頭も下げて謝る本田。
「本田くん嫌い!」
照葉(てるは)との関係を進めようとして、逆走してしまったようだ。
■後日談2
俺の席の右側はさくらの席だが、クラス全員の同意の下、左側に照葉(てるは)の席が移動になった。
ここにはもう、触れないでほしい・・・
■後日談3
家に帰ってからはさくらの『裏モード』が全開して大変だった。
ずっと俺に抱き着いていて、全く離れなかった。
その上、泣くわ喚くわ・・・ソファで、『抱っこ+頭なでなで』と『(俺の)膝枕+お腹さすさす』で何とか収めた感じだった。
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