49_本田と塩豆大福

昼休みに本田に呼び出された。

校舎の屋上・・・と言いたいところだが、実際は扉には鍵がかかっているものだ。


だから、バスケ部の部室まで来ている。

本田はバスケ部だから、ある程度融通が利くらしい。


部員ならば気にならないのだろうが、はっきり言って汗臭い。

コンクリートで作られた小屋みたいな所で、昼休みに男と2人・・・

地獄か。


「なあ本田、話はいいが、場所は何とかならなかったのか?」


「食堂は、いま昼めし食ってるやつでいっぱいだろ」


「じゃあ、放課後とか」


「セリカ、すぐに帰るじゃないか」


「・・・まあ。家が大好きなので・・・」


「はあぁ・・・そりゃあ、あんな可愛い許嫁が遊びに来るなら、帰りたいよなぁ」


「可愛いのは否定しないけど、彼女が来なくても家が好きなんだよ」


「あーはいはい」


いい加減な返事。

失礼なやつだ・・・


本田が部室の靴を揃えながら聞いてきた。

手持ち無沙汰なのか、見つかったときに『整理してました』と言う言い訳にするためなのか・・・


「なあ、小鳥遊(たかなし)さんどうするの?」


「どうするって?」


「幼馴染なんだろ?」


「ああ、小さい時から一緒だったな」


「お前、本気で気づいてないの?」


「・・・何に?」


俺の答えに本田は不満そうな顔をした。


「普通、小・中・高校と女子が近くにいてくれるか?」


「それは、俺たちは兄弟みたいな感じだから・・・」


「俺の妹なんか実妹(じつまい)でも口きいてくんないぞ?」


「それは、本田が本田だから・・・」


「お前、革新的な失礼なことを言ったな!・・・いや、そうじゃないんだよ!」


「何の話だよ。俺もうこの臭いのせいで、何も話が入ってこないよ」


本田が、一旦こっちを見て真剣な顔で言った。


「俺はお前を友達だと思ってる」


「・・・え?なに?俺、今フラれたの?」


「バカ!違う!」


「だって、俺告白したのかと思ったわ・・・その時の記憶を失ったのかと・・・」


本田の話はいつも飛ぶ。

やつの中でだけしか、そのつながりは分からない。


「違う!じゃあ、俺、小鳥遊(たかなし)さんに告っていい?」


「・・・」


腕組みをして、芝居がかった感じを演出して言った。

着物を着て髭が這えてる頑固親父的なイメージ。


「照葉(てるは)はお前にはやらん!」


「お前なぁ」


「父親目線で言ってみた」


「バカだろお前」


「ああ、バカだよ」


そこに転がっていたバスケットボールを拾う。

回転させて人差し指の上でコマのように回す。


「俺は、照葉(てるは)のこと好きだよ」


「じゃあ!お前!」


「照葉(てるは)も俺のことは好きだと思う・・・だけど。違うんだよ」


「何が違うんだよ!?」


「始まる前から終わってた」


「はぁ?」


「兄妹って言うか・・・好きの具合が違うんだよ」


「好きに種類なんてあんのかよ?」


「昔から一緒だったし、良いところも悪いところも知ってる」


「じゃあ」


「でも、それだけ。あいつには言うなよ?」


少し声を潜めて続けた。


「なんだよ」


「俺、いつか照葉(てるは)と結婚するんだって思ってた」


「ほら!」


本田が俺を指さした。


「でも、さくらに会った瞬間『違う』って分かった」


「それは、赤い糸的なやつか?」


「いや、『好きってこれなんだ』って分かったんだよ」


「でも、許嫁なんだろ?よかったじゃないか」


「バカだなぁ。あれは、さくらが勝手に言ってるだけだ。俺からしたら、どこが好かれてるのか分からないんだぞ?」


「何もしなくて好かれるなんて、エロゲの主人公みたいでいいじゃないか」


本田が軽く俺の方をこずく。


「でも、現実ではありえないだろ?」


「まあな」


「じゃあ、俺は何をしたらもっと好かれて、何をしたら嫌われるのか分からないんだぞ?」


「そうか。相手はどこを好きか分からないんだからな」


「何気ない一言でいきなり冷めるかもしれないんだ」


「ああ」


「だから、今のうちに全力なんだよ」


「でも、それって、俺からしたら、目の前の塩豆大福を食べないってことだろ!?」


「・・・ごめん、何言ってるのか分からない。なぜ塩豆大福が出てきた?」


だいたい何だよ『塩豆大福』って。

あとで検索してみるか。


「俺はなぁ、お前がずっと羨ましかった・・・」


「はあ・・・」


「俺がずっと欲しくても手に入らないもんを手に入れる権利を持ってた」


「それが塩豆大福?」


「お前の前には、俺の大好物が置いてあるってことだ」


「塩豆大福」


「そお!お前は手に取ることもない。まして食べることもない。俺の大好物」


「ああ・・・そう言うことか」


本田がふいに立ち上がった。


「明日の体育はバスケって知ってるか?」


「お前の話は飛ぶなぁ。バスケがどうした!?」


俺からバスケットボールを取って、その場で小さくドリブルを始めた。


「明日の体育で俺と1ON1やろうぜ」


「まあ、いいけど?」


「俺が勝ったら、小鳥遊(たかなし)さんをもらうぜ!」


「いや、それは・・・」


「嫌とは言わせねえ!」


そう言って、本田は部室を出て、教室に全力で走って行ってしまった。

言い逃げだ。

ひとりで青春って感じでいいのだが、部室の鍵どうするんだよ。


あと、汗臭い。

しばらく、鼻の奥にこのにおいがこびりついていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る